【精神科医が解説】精神保健福祉法第34条に基づく移送ってなに?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、精神保健福祉法第34条に基づく移送について解説していきます。

この記事の内容

精神保健福祉法第34条に基づく移送について精神科医が詳しく解説していきます!

精神保健福祉法第34条とは

第34条は、「医療保護入院等のための移送」という条項になります。

 指定医が診察して、直ちに入院させる必要があると判断された精神障害者で、任意入院ができない者について、保護者の同意の有無に応じて医療保護入院または応急入院をさせるため、都道府県知事によって応急入院指定病院に移送することができる制度です。

条文(医療保護入院等のための移送)

第三十四条 都道府県知事は、その指定する指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたものにつき、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を第三十三条第一項の規定による入院をさせるため第三十三条の七第一項に規定する精神科病院に移送することができる。

精神保健福祉法

この後は、家族同意の医療保護入院ではなく、市町村長同意の医療保護入院や応急入院となる場合についての条項が続きます。

ちなみに、この対象となる「第三十三条の七第一項」の規定とは、「厚生労働大臣の定める基準に適合するものとして都道府県知事が指定する精神科病院」のことです。つまり、応急入院の指定病院ということになります。

この移送制度を用いて入院させることができるのは、応急入院の指定病院に限られるということがわかります。

この制度ができた経緯

この制度は、平成11年の法改正で追加されたものになります。なぜこのような移送制度ができたのか考えてみましょう。

それまで、入院が必要だけれども十分な理解を得ることができず、病院に連れてくることも困難であった患者さんを病院に移送するという制度はありませんでした。

しかし、そうした患者さんの入院が遅れ自傷や他害行為に及んでしまったり、家族から依頼を受けた民間の警備会社が強制的に患者さんを移送してしまうなど、人権保護の観点から望ましくない事態が起こってしまっていました。

そのため、こうした制度が新設されたというわけです。

移送までの流れ

本人の意思に関わらず患者さんの身柄を移送するという制度になりますから、その移送にはしっかりとした準備が必要になります。

まずは保護者等による相談を受けた都道府県や指定都市の保健所が事前調査を行い、訪問調査等を行います。

その後、移送の準備を行い、最終的には精神保健指定医が診察をし、医療保護入院や応急入院が必要かどうか判断します。

必要な場合で家族同意が得られた場合には33条1項による医療保護入院、市町村同意が必要となる場合は33条2項の医療保護入院、そして家族等の同意が得られない場合に関しては、応急入院のために移送が行われるということになります。

この際、移送中にも行動制限が行われる場合があります。

出典:厚生労働省 精神保健福祉法第34条に基づく移送制度について

ただし、この移送制度に関しては、まだまだメジャーな制度になっているとは言い難いところもあります。

下記の厚生労働省の資料では、平成12年から平成21年までの10年間での移送件数は1611件にとどまっています。入院先となる応急病院、静神保健指定医の確保や、移送手段の確保など、さまざまな課題があり、このような現状になっていると考えられます。

出典:厚生労働省 精神保健福祉法第34条に基づく移送制度について

おわりに

精神保健福祉法34条に基づいた移送制度について、解説してきました。

移送制度は病院によってはあまり目にすることがなく、特に応急入院指定病院でなければ経験することはないと言えます。

また制度にもさまざまな課題があり、依然として民間業者による移送などが行われているケースが多いのも現状だと言えるでしょう。

まとめ

精神保健福祉法第34条に基づく移送は、都道府県が入院が必要な患者を移送する制度。
条件を満たした場合に応急入院指定病院への移送と医療保護入院・応急入院などが行われる。
制度には件数の少なさなど、課題もある。

参考文献

  1. 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
  2. 伊東秀幸, 精神保健福祉法第34条による移送制度の現状と課題,田園調布学園大学紀要 第 5 号 2010(平成22)年度, p41-56
  3. 精神保健福祉法第34条に基づく移送制度について, 厚生労働省 第3回 保護者制度・入院制度に関する作業チーム, 2022
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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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