【精神科医が解説】精神保健福祉法による退院請求・処遇改善請求とは?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、精神科入院患者を対象とした、精神保健福祉法に基づく退院請求・処遇改善請求について解説していきます。

この記事について

精神科医が精神保健福祉法に基づく退院請求や処遇改善請求について解説します!

退院請求・処遇改善請求とは

精神科病院には様々な入院形態があり、中には患者本人の同意によらない「非自発的入院」と呼ばれるものがあります。

これは、基本的に安全確保のためやむを得ず行われるものですが、一歩誤れば重大な人権侵害につながるリスクをはらんでいます。その人権保護のための制度が、退院請求や処遇改善請求の制度です。

基本的に、入院や入院中の処遇に納得がいかない場合、主治医などの病院のスタッフに相談することが第一になります。しかし、そこで納得がいかない場合は、入院中の患者またはその家族等は、都道府県知事に対し患者さんの退院と処遇改善を求めることができます。

これは、入院形態に関わらず、精神科病院に入院している患者を対象としているものです。

さて、根拠となる条文を見てみましょう。

(退院等の請求)第三十八条の四 精神科病院に入院中の者又はその家族等(その家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合にあつては、その者の居住地を管轄する市町村長)は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事に対し、当該入院中の者を退院させ、又は精神科病院の管理者に対し、その者を退院させることを命じ、若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じることを求めることができる。

精神保健福祉法

この家族等とは、配偶者、親権者、扶養義務者、後見人、保佐人のことを指します。

退院請求等の審査の流れ

さて、この手続きは、実際はどのようにおこなわれるのでしょうか。詳しくは続く三十八条の五で規定されているのですが、ここでは日本精神科病院協会の「精神保健福祉法の解説」ページ東京都の精神医療審査会のページを参考に、流れを説明します。

出典:https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/chusou/seishiniryoshinsa/shinsakai.html

まず、患者本人や家族、本人の代理人である弁護士のいずれかが、都道府県の窓口に連絡し請求を行います。

この窓口は、「入院に際してのお知らせ」の書面に記載されているほか、精神科の病棟内にも掲示がされています。この「入院に際してのお知らせ」は、患者さんが入院してから手元に保管しておく書類になります。

請求が受理されると、請求者、患者さん本人、家族等、入院先の病院管理者(院長)に書面または口頭で連絡がなされます。

その後、精神保健福祉法第十二条に基づき、各都道府県または政令指定都市に設置された精神医療審査会の委員が、請求者、患者さん本人、家族等、入院先の病院管理者から意見聴取を行います。

第十二条 第三十八条の三第二項(同条第六項において準用する場合を含む。)及び第三十八条の五第二項の規定による審査を行わせるため、都道府県に、精神医療審査会を置く。

精神保健福祉法

意見聴取の結果をもとに、「精神医療審査会の合議体」で審査を行い、都道府県知事から請求者、患者さん本人、家族等、入院先の病院管理者(院長)に対して、審査結果とそれに基づいてとった措置を通知することになります。

この「精神医療審査会の合議体」は、以下の5人によって構成されると精神保健福祉法第十三条・十四条で定められています。

第十四条 精神医療審査会は、その指名する委員五人をもつて構成する合議体で、審査の案件を取り扱う。

 合議体を構成する委員は、次の各号に掲げる者とし、その員数は、当該各号に定める員数以上とする。

  •  精神障害者の医療に関し学識経験を有する者 二
  •  精神障害者の保健又は福祉に関し学識経験を有する者 一
  •  法律に関し学識経験を有する者 一

この合議体は、例えば茨城県を例にすると以下のようなメンバーで構成されています。

  • 医療委員3名…精神保健指定医
  • 法律家委員1名…弁護士や検察官
  • 有識者委員1名…社会福祉協議会の役員、その他公職経験者等であって精神障害者の保健・福祉に関して理解を有する者

茨城県ではこのような構成の合議体が2つあり、定期的に審査等を行っているようです。他県・政令指定都市でも、合議体の数などに差はありますが、おおむね同じような構成となっています。

退院請求が認められる割合

さて、患者さんからの請求が通り、実際に退院や処遇改善等がなされることはどのくらいの割合であるのでしょうか。

基本的に、この退院請求が認められ、退院となることはまれだといっていいでしょう。

例えば、令和2年度の東京都中部総合精神保健福祉センターのデータ(同センターHPより)によると、合計211件の請求のうち、退院が認められたのは2件、認められなかったのは110件、取り下げが98件という結果になっています。

この割合からも、退院請求がそのまま認められるというのは、レアなケースであることがわかります。

というのも、この請求は、すべての入院患者に保障されている権利ですから、中には病識がなく、精神症状に左右されている患者さんが請求することもあります。そのような場合は、入院に対して不服であると考えるのも自然ですから、実際にそのような流れで退院請求をされることはよくあります。

令和2年度審査状況(東京都立中部総合精神保健福祉センターの例)

退院請求審査件数
退院を認める2
退院は認められない110
内訳現在の入院形態継続88
他の入院形態へ移行して継続22
保留/再審査1
取り下げ等98
211
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/chusou/index.html
処遇改善請求審査件数
処遇は適当52
処遇は不適当4
保留/再審査1
取り下げ等47
104
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/chusou/index.html

おわりに

いかがでしたでしょうか。

患者さんの人権を守るための制度である、「退院請求等」の規定について解説しました。今回はかみ砕いて説明しましたが、細かな内容は、精神保健福祉法の条文を一度読み込んでみるのが勉強になります。

まとめ

精神保健福祉法による退院請求・処遇改善請求は、患者さんの人権保護のための制度。
精神保健福祉法に基いて規定されている。
精神医療審査会は、都道府県や政令指定都市に設置され、合議体により退院請求等の審査を行う。

お読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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