はじめに
こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。
今回は、臨床現場で働く精神科医が、「精神科の初診で聞かれること」にについて解説していきます。
この記事の内容
現役の精神科医が、精神科の初診でどんなことが聞かれるのか解説します!
精神科の初診とは
精神科に限らず、ある医療機関に初めてかかることを「初診」と呼びます。
二度目以降の患者さんは「再診」患者さんになるので、区別してこのように呼んでいます。
精神科の「初診」が他の診療科と比べても特徴的なことは、患者の生い立ちから教育歴などに至るまで、多くの情報をお伺いすることです。
例えばカゼで近くにクリニックに初診しても、人生のことについて事細かに聞かれることはめったにないでしょう。そんなことをしてたら診察が回りません。
しかし、精神科では生い立ちや家族構成など、様々なことを参考にする必要があります。そのため、最低でも30分から1時間程度といったまとまった時間がかかるのです。
予診と本診
こうした精神科の初診の特徴として、「予診」と「本診」というシステムがとられることがあります。
精神科の初診は時間がかかるので、例えば医師が再診の合間に初診の患者さんを診ている場合など、十分時間が確保できないこともあります。
そのためある程度事前に診察をして、問診を進めておく必要がある場合もあるわけです。
この場合、「予診」はクリニックだと心理士が問診をとったり、大学病院などだと若手医師が担当したりすることもあります。
精神科の初診できかれること
僕たち精神科医が、どのようにして問診を行っているのか、項目別に解説していきます。
主訴
これは精神科に限らず、一番重要な情報です。英語で「chief complaints」つまり「主な訴え」ということで、「患者さんが何に一番困っているか」ということです。
気持ちが落ち込む、眠れない、幻聴が聴こえてくるなど、患者さんが何かを訴えて病院にかかったのであれば、それが主訴になります。
「どういう症状があっていちばん困っているのか」ということを明らかにしておくと良いでしょう。
現病歴
主訴と同じように大切なのが、「経過がどうであったのか」という情報です。
例えば気持ちの落ち込みで困っているのであれば、いつから、どのようにそれが出てきたのか。どのくらいひどいのか。また、きっかけになったことがなんなのか、など、症状の経過についての情報がポイントになってきます。
また、もしこれまでの生活で何か別の症状があったり、他の病院に通院したことがあったら、それも重要な情報になります。
もちろん、いろいろな病気を疑い、適切に質問をしていくのは、問診を行う医師の腕の見せ所になります。
とはいえ、患者さん側でもある程度情報を整理しておくことで、問診もスムーズになると思います。
因みに、患者さんの症状を尋ねる中で、精神科医が必ずと言っていいくらい聞くことが「食欲」と「睡眠」についてです。
これはある意味、体の診療における血圧と体温みたいなもので、心の健康のバロメータになるものだと僕は思っています。
生活歴
これは他の診療科でも聴取する項目ではありますが、精神科では特に重要になってくる項目です。簡単に言うと、その人の人生や生い立ちについて尋ねる項目になります。
患者さんの出身地や兄弟、家族構成、現在の同居人などの情報の他に、学歴、職歴や学校の成績などを尋ねることもあります。
これは、精神科においては人間関係や学校・職場での様子など、あらゆる情報が患者さんの症状や病態の理解に役に立つからです。
発達障害を疑う患者さんだと、幼少期の病歴が診断に不可欠になるので、母親から情報を聴取したり、学校での通知表を持参して貰ったり、周産期・幼児期の発達についても細かく聞くことがあります。
逆に、物忘れで受診されたようなご高齢の方には、幼少期の病歴まで根ほり葉ほり聞くことは少ないです。(むしろ聞いても分からない場合が多い)
また生活歴を知ることは、治療を進める上で社会的な支援を行うポイントにもなってきます。(例えば一人暮らしの高齢者で周りに家族がいない→介護サービスを提案するなど)
その他に、患者さんの普段の生活を知ってアドバイスをするうえで、趣味などを尋ねることもあります。こうした項目は、医師が患者さんの生活をイメージするうえで、解像度を上げることに繋がります。
既往歴やアレルギー、服薬
既往歴とは、これまでどのような病気にかかってどのような持病、アレルギーなどがあるのか、といった項目になります。精神科に限らず、他の科でも「大きな病気をしたことがありますか」といったことは必ず聞かれると思います。
精神科においても、薬の選択や症状の原因を考える上で、患者さんの持病やアレルギーを把握しておく必要があります。なかには糖尿病や緑内障など、精神科の一部のくすりと飲み合わせが悪い病気もあるので、この辺りはもしお持ちであれば必ず伝えるようにしてください。
もし現在薬を飲んでいる場合は、それも処方を決めるに当たって考慮が必要になるので、おくすり手帳などを持っていくといいと思います。
家族歴
精神科に限らず、血縁者などに病気をお持ちの方がいないかお尋ねすることがあります。
これは、からだ・こころの病気の診断には、遺伝の関係が切っても切り離せないためです。
例えば、双極性障害という病気は、うつ状態と気分が高揚した状態を繰り返す病気ですが、うつ状態で受診される方は少なくありません。
この場合、「うつ病」と誤診してしまいがちですが、もしご家族に双極性障害の方がいる場合は、双極性障害の可能性を疑う一つの材料になります。
こうした事情から、家族歴の聴取は、からだの科でもこころの診療科でも必ず聞かれる項目になります。
飲酒や喫煙歴など
こころの病気の中には、アルコール依存症や薬物依存症といったものもあり、お酒やたばこといった嗜好についても必要な問診項目になっています。
不眠やうつなどの他の悩みで受診されたけれど、よくよく聞いてみると相当お酒に頼っていて、依存症と診断される状態になってしまっていた、ということも多々あります。お酒やたばこに頼りすぎていないか、受診前に改めてチェックしてみましょう。
自分がどう思っているのかを伝える
精神科の初診で聞かれることが多い、基本的な問診項目を解説してきました。文面の都合で短くまとめましたが、精神科の初診は奥が深く、症状や患者さんの理解のために様々な質問をすることがあります。
最後に大切なことは、「患者さん本人が、現在の問題について何が原因で、今後どうしたいと思っているのか」という情報です。これはある意味、主訴と同じくらい最重要のものかもしれません。
これは専門的に言うと「解釈モデル」と呼ばれるもので、患者さんが病状についてどう解釈しているかというものになります。
「職場の上司がストレスで、そのせいで気持ちが落ち込んでいると思ってます」
「大切にしていた犬が死んでしまって、それからずっと頭が痛いので、それが原因かなと思っています」
など、患者さんがどのように考えているかというものです。
これはあくまで「考え」に過ぎず、何が絶対正しいというものはないのですが、すくなくとも医師と患者さんの間で病状の理解がかみ合わない状態では、うまく治療が進んでいきません。
また、患者さんが「今後どうなってほしいのか」ということも、治療を進める上で大事です。
例えば、同じうつ状態の患者さんでも、
「キャリアにかかわるので、とにかく気持ちの落ち込みを改善させて、すぐにでも仕事に復帰しないと困る」と考えている人もいれば、
「仕事はしばらくいいので、気持ちの落ち込みが良くなるまで、すこしゆっくり療養したい。薬にはあまり頼りたくない」と考える人もいます。
この両者では、治療のアプローチがすこし異なってきます。前者では、早めに薬物療法を導入して早期改善を目指すことになるかもしれませんし、後者では、まずは療養して様子を見てみましょう、という展開になるかもしれないからです。
治療は患者さんだけ、医師だけが行うものでもないですから、「こうしたい」というゴールを共有することが、よい結果につながってくると思います。
おわりに
精神科の初診で聞かれる項目について、すこし解説してみました。
確かに、精神科の初診は時間がかかって大変だけれども、患者さんの人生を理解し、寄り添うために、とても重要な時間になります。
基本的には、ご紹介した項目は診察で医師が聞き進めていく内容になるとおもいますが、事前にある程度情報を整理しておくと、診察がスムーズに進むと思います。
はじめて精神科や心療内科を受診するときは、色々とハードルが高く感じるかもしれませんが、事前に準備をしておけば安心感が増すと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
まとめ
- 精神科の初診は時間がかかる。それは病状の理解のために色々な項目を聴取するから
- 事前に情報を整理しておくと、診察がスムーズ!
- 自分がどうしたいのか、どう考えているのかを医師と共有することが大事!
コメント
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