はじめに
こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。
今回は、躁状態に特徴的にみられる「観念奔逸」について解説していきます。
思考の障害の種類
まず、思考の異常は、教科書的には①思路の異常、②思考体験の異常、③思考内容の異常に分けられるといわれています。
思考の異常の種類
- ①思路の異常・・・連合弛緩、思考制止、観念奔逸など
→思考の過程の異常。まとまりを欠いたり、異常に亢進したり制止してしまう。 - ②思考体験の異常・・・思考伝播・自生思考・強迫観念など
→自我が障害され、思考を自分でコントロールできなくなる。 - ③思考内容の異常・・・妄想着想・妄想知覚・被害妄想など
この中でも、「観念奔逸」は「思路の異常」、つまり思考の過程に異常が生じるタイプに分類されます。

観念奔逸とは
観念奔逸とは、思考のスピードが異常に速くなり、次から次へと新しい考えが湧き上がってしまう状態を指します。
通常、私たちの思考は、ある程度のペースで、意味のあるつながりを持ちながら展開していきます。まるで、適度な速度で走る列車のようです。
しかし、観念奔逸では、列車がスピード違反を起こしたかのように加速し、さらに途中で車線変更を繰り返すように、話題が次々と飛んでいってしまいます。
例えば、
「今日はオムライスを作ろうと思ったんだけど、オムライスっていえばケチャップだよね、ケチャップって昔アメリカで流行ったんだっけ、アメリカといえば大統領選が気になるな、選挙っていえば…」
このように、一応関連性はあるものの、次々に思考が飛躍し、どんどん話題が移り変わっていきます。
周囲から見ると「話がどんどん脱線していく」「ついていけない」と感じられることが多く、本人は高揚した気分で、止めどなくしゃべり続ける傾向があります。
観念奔逸と似た状態との違い
観念奔逸と混同されやすい状態についても確認しておきましょう。
連合弛緩との違い
連合弛緩も、思考のまとまりが乱れるという点で似ていますが、違いがあります。
連合弛緩では「意味的なつながりそのもの」が緩くなり、話が飛躍して脈絡を失いますが、観念奔逸では「意味の連続性自体」はある程度保たれています。
「似てるじゃん!」と思った方もいるかもしれません。
実はそれは大事な視点です。
臨床現場では、統合失調症と躁うつ病自体は、境界があいまいなこともよくあります。昔は「非定型精神病」などと呼ばれましたが、「統合失調感情障害」といって、統合失調症と躁うつ病のミックスのような病状がみられることがあります。
統合失調症で思考が弛緩しているのか、それとも躁状態で観念奔逸状態になっているのか、現場では見分けづらいこともあったりします。
思考制止との違い
うつ病でみられる「思考制止」は、観念奔逸とは真逆の状態です。
思考制止では、思考のスピードが極端に遅くなり、考えがなかなか進まなくなります。
観念奔逸が「猛スピードで走る列車」だとすれば、思考制止は「超スローモーションで動く列車」のようなものです。
おわりに
今回は思考の障害の種類と、「観念奔逸」について解説してみました。躁状態の理解には欠かせない概念であり、国家試験や臨床現場でも頻出の知識です。
思考障害のタイプを正しく理解して、診断や治療に役立てられるようにしましょう!
まとめ
- 「観念奔逸」は思路の障害の1つ。
- 躁状態でみられ、思考が異常に加速して次々に話題が飛んでいく状態。
- 連合弛緩や思考制止など、似た用語と区別して理解することが重要。