はじめに
こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。
今回は、うつ病に特徴的にみられる「思考制止」について、詳しく解説していきます。
思考の障害の種類
まず、思考の異常は、教科書的には①思路の異常、②思考体験の異常、③思考内容の異常に分けられるといわれています。
思考の異常の種類
- ①思路の異常・・・連合弛緩、思考制止、観念奔逸など
→思考の過程の異常。まとまりを欠いたり、異常に亢進したり制止してしまう。 - ②思考体験の異常・・・思考伝播・自生思考・強迫観念など
→自我が障害され、思考を自分でコントロールできなくなる。 - ③思考内容の異常・・・妄想着想・妄想知覚・被害妄想など
この中でも、「思考制止」は「思路の異常」、つまり思考の過程に異常が生じるタイプに分類されます。

思考制止とは
思考制止とは、考えようとしても思考が極端に遅くなってしまう、もしくはなかなか前に進まなくなってしまう状態をいいます。
通常、私たちの思考はある程度のスピード感を持って展開します。
しかし、思考制止が起こると、まるで頭の中に重たいブレーキがかかったかのように、
考えるペースが極端に遅くなり、言葉を出すのも苦労するようになります。
たとえば、
「今日は…ご飯を……ええっと……作らないと……うーん……」
このように、ひとつひとつの思考をつなげるのに非常に時間がかかってしまうのが特徴です。
なぜ思考制止が起きるのか?
思考制止は、特にうつ病に伴ってよくみられます。
原因としては、
- 精神的エネルギー(活力)の低下
- もっと医学的な仕組みの話で言えば、脳内のセロトニン・ノルアドレナリン系の機能低下 が関わっていると考えられています。
エネルギーが枯渇してしまった状態の脳では、思考を進めるための推進力が足りず、
結果として考えをまとめること自体が極めて難しくなってしまうのです。
思考制止と似た状態との違い
ここでは、思考制止とよく混同されやすい状態と、その違いについて整理しておきます。
思考途絶との違い
- 思考制止
→ 考えは続いているが、非常にゆっくりとしか進まない。
(例:超スローモーション列車) - 思考途絶
→ 考えが突然ぷつっと途切れてしまう。
(例:線路が突然途切れる列車)
つまり、思考制止では「止まりかけの列車だけどまだ動いている」イメージ、
思考途絶では「急に電車が消えてしまう」イメージです。
連合弛緩との違い
- 連合弛緩では、思考のスピードよりも「観念同士のつながり」がゆるくなり、話が飛躍したりまとまりがなくなります。
- 思考制止では、つながりは維持されているものの、ただただ進みが遅いだけです。
つまり、連合弛緩は「つながりの異常」、思考制止は「スピードやエネルギーの異常」と整理できます。
おわりに
今回は思考の障害の種類と、その中でも「思考制止」について解説してみました。
思考制止は、うつ病の診断や重症度の判断にも非常に重要なポイントです。
うつ病による思考制止は、適切な治療(薬物療法や精神療法)と休養によって、回復していくことが期待できます。
焦らず、少しずつエネルギーを取り戻していくことが大切です。
まとめ
- 「思考制止」は思路の障害の1つ。
- うつ病などでみられ、思考のスピードが極端に低下する状態。
- 思考途絶や連合弛緩など、似た状態と区別して理解することが重要。