はじめに
こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。
今回は、統合失調症に特徴的にみられる「考想伝播(思考伝播)」について解説していきます。
思考の障害の種類
まず、思考の異常は、教科書的には①思路の異常、②思考体験の異常、③思考内容の異常に分けられるといわれています。
思考の異常の種類
- ①思路の異常・・・連合弛緩、思考制止、観念奔逸など
→ 思考の過程の異常。まとまりを欠いたり、極端に遅くなったり、暴走したりする。 - ②思考体験の異常・・・考想伝播、自生思考、強迫観念など
→ 思考そのものに対する自我の感覚が障害される。 - ③思考内容の異常・・・妄想着想、妄想知覚、被害妄想など
→ 思考の「中身」に異常が現れる。
この中でも、「考想伝播」は②思考体験の異常に分類されます。
考想伝播とは
考想伝播とは、「自分の考えていることが他人に伝わってしまっていると感じる体験」を指します。
たとえば、
「今自分が頭の中で思ったことが、他の人に筒抜けになってしまっている」
「自分の考えが周りに漏れて、皆が知ってしまっている」
と確信するような感覚です。
本人にとっては非常にリアルな体験であり、単なる「気のせい」というレベルではありません。
実際に周囲に伝わっているわけではないにも関わらず、「伝わってしまった」という確信が生じます。
なぜ考想伝播が起きるのか?
考想伝播は、主に統合失調症における自我障害の一部として出現すると考えられています。
通常、私たちは
- 「自分の思考は自分のものである」
- 「頭の中で考えているだけで、他人には知られない」
という感覚を当然のこととして持っています。
しかし、自我障害が起こると、この「自分と他人の境界線」が曖昧になり、
- 自分の思考が自分のものではなくなったり
- 自分の考えが他人に伝わっているように感じたり
する体験が生じてしまうのです。
このため考想伝播は、統合失調症の中核症状のひとつと位置付けられています。
考想伝播と似た症状との違い
考想奪取(思考奪取)との違い
- 考想伝播
→ 「自分の考えが他人に伝わってしまう」と感じる。 - 考想奪取(思考奪取)
→ 「自分の考えが他人に奪い取られてしまった」と感じる。
どちらも自分の思考に対するコントロール感の喪失が共通していますが、
考想伝播は「伝わる」、考想奪取は「盗まれる」という違いがあります。
考想化声との違い
- 考想化声
→ 自分の思考内容が、あたかも「声」として聞こえてくる体験。
こちらも統合失調症に特徴的な症状ですが、考想伝播とは異なり、
「思考が声となって外から聞こえる」現象(幻聴)に近いものになります。
これらは全て統合失調症でみられることが多く、「自我の境界」があいまいになってしまうことで起こる症状であるといわれています。
おわりに
今回は、思考の障害の中でも特に重要な「考想伝播」について解説しました。
考想伝播は、精神疾患の診断において非常に特徴的なサインです。
特に統合失調症の「自我障害」の存在を示すものであり、診断の参考になる所見であるといえます。
ただ、患者さん自身は非常にリアルに苦しんでいるため、否定せず、丁寧に理解しながら対応していくことが大切です。
まとめ
- 考想伝播は思考体験の異常のひとつ。
- 自分の思考が他人に伝わってしまうと感じる現象。
- 統合失調症に特徴的であり、自我障害の一部と考えられる。
- 考想奪取や考想化声と区別して理解することが重要。