【精神科医が解説】認知症のスクリーニングに用いる時計描画テストとは?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、認知症の検査などに用いる「時計描画テスト」というものについて解説していきます。

この記事について

「時計描画テスト」とは何か、精神科医が解説します!

時計描画テスト(CDT)とは

今回ご紹介する「時計描画テスト」とは、認知症の検査に用いるスクリーニングテストの1つになります。英語ではClock Drawing Test: CDTと呼ばれます。

やり方は簡単で、「時計の文字盤を書いてもらう」それだけです。

具体的には「2時50分を示す時計の文字盤を書いてください」と被験者にお願いし、それを正しく書けるかを評価することになります。

非常に簡単にできるスクリーニングテストですが、認知症患者ではこの時計描画ができなくなってしまうこともあるため、スクリーニングとしては有用な検査といわれています。

認知症とうつ病の鑑別

「認知症診療医テキスト」(日本精神神経学会, 2019年)では、「標準化された手法や採点基準がまだ確立されていないことから、評価者間で情報を共有するには向いていない」と述べられています。

しかし、時計描画テストが有用になるシーンの1つに、うつ病を鑑別するのには有用であると述べています。

うつ病では、気分の落ち込みによって認知機能が一時的に低下してしまうことで、認知症のような状態になることがあります。こうした状態を「仮性認知症」といいます。

このような状態で、時計描画テストを行うと、うつ病では障害されることが少ないため、うつ病なのか、認知症なのかを見分けるのに有用であるということになります。

実際の解答例

実際の正答と誤答例を見てみましょう。

以下の画像は、左はうつ病(HDS-R:20点 MMSE20点)、そして右は軽度認知障害(HDS-R:20点 MMSE:20点)と、スクリーニング検査で同じような点数であった二人の患者さんが書いた時計です。

出典:認知症診療医テキスト 日本精神神経学会, 2019年

長谷川式やMMSEでは同じようなスコアですが、時計描画に関しては軽度認知障害の患者さんで明らかに誤答がみられます。

実際のところは、心理師さんが時間をかけて行うような詳しい認知症検査を行って鑑別することもできるのですが、手間がかかります。

そんな時に、CDTは時計を書くだけですみます。数分でできてしまう試験です。決して万能な検査ではありませんが、簡単なスクリーニングには役立ちます。

心理的なメリット

時計描画テストのメリットの一つとして、「検査としての心理的抵抗が少ない可能性がある」ということも挙げられます。

これは人それぞれですが、「認知症の検査をさせてください」というと、中にはプライドが傷つき、「やりたくない」という患者さんもいらっしゃいます。

「時計を書いてください」というお願いであれば、そこまで心理的に抵抗がなく実施できる可能性もあります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

時計描画テストは、臨床現場でも比較的簡単に行えるほか、認知症診断の精度を向上させるツールであるといえます。

個人的には、客観的に評価・共有するためには評価基準が不十分といった問題点もありますが、スクリーニングのツールとしては選択肢に入れていいと考えています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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