【精神科医が解説】セネストパチーってなに?どんな症状が見られる?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、「セネストパチー」(体感異常症・体感症)について解説していきます。

この記事の内容

「セネストパチー」(体感異常症・体感症)について精神科医が解説します。

セネストパチーとは

 セネストパチー(cenesthopathy)とは、実際に体に異常がないのにも関わらず、「脳がグネグネしている」「内臓に穴が開いている」「皮膚を虫が這い回っている」などといった奇妙な体感異常をきたす状態像のことを言います。

日本語に訳すと「体感異常」「体感症」などと訳されますが、1907年にフランスの医学者DupréとCamusが提唱したのが最初と言われています。

 セネストパチーとは、ICD-10やDSM-5といった精神医学で用いられる診断基準で明確に定められた病名ではありません。ですから、「こういう診断基準がある病気で、こういう治療が決まっている!」というわけには行かないのが現実です。

その原因や病態・治療を含めて、まだコンセンサスが十分得られているというわけではない病態だと言えるでしょう。

 セネストパチーは統合失調症やうつ病など、様々な精神疾患に付随するものもあれば、単に体感異常だけが生じる場合もあり、前者を「広義のセネストパチー」後者を「狭義のセネストパチー」と呼ぶことが主流のようです。

 前者のように精神疾患が原因で症状が出現している場合は、主な疾患の診断に従うことになりますが、後者のような場合は、診断基準に当てはめると、DSM−Ⅴにおける「妄想性障害:身体型」などに分類されることになると思われます。

 統合失調症では、体感幻覚は主要な症状の一つとされています。重症のうつ病におけるコタール症候群のように、「内臓が溶けてしまう」などの奇妙な感覚を訴えることも見られます。

口腔内セネストパチー

狭義のセネストパチーの中でも、口や舌といった口腔内に異常な感覚が出現することがあります。

 これを口腔内セネストパチー(oral cenesthopathy)と呼び、歯科や口腔外科を受診し、受診を繰り返しても異常が見つからず精神科を受診するケースを多く見かけます。こうしたケースは特に高齢者に多いと言われています。

例としては、「口の中に異物感がある」とか、「噛み合わせが何かおかしい」、「口が乾燥して張り付くような感じがする」などです。

こうした背景には、脳器質的背景(認知症による脳の変性・萎縮など)が影響している可能性も推察されます。

 これは口腔内セネストパチーに関わらず全身について言えることですが、実は口腔外科的な疾患やシェーグレン症候群など、身体的な原因が隠れている可能性もあります。そのため、まずは身体的な要因をある程度否定しておくことは重要です。

セネストパチーの治療

 先に説明した通り、セネストパチー自体が、病態や定義が比較的曖昧な状態像であり、これといった決まりきった治療があるわけではありません。

 広義のセネストパチーの場合、うつ病や統合失調症など、背景となっている原疾患が明らかに存在するのであれば、原疾患の治療を行うことで改善する可能性があります。

 また、狭義のセネストパチーの場合には、抗精神病薬や抗うつ薬など、種々の向精神薬を試すことになりますが、いまいち反応がパリッとせず、慢性的な経過を辿ることもよくあります。

 我が国における幾つかの症例報告を見てみると、抗精神病薬であるアリピプラゾールやリスペリドン、また三環系抗うつ薬のアミトリプチリンが有効であったとの報告があります。

 また、薬物療法ではなく日常生活指導や社会的な環境調整を行なったことで改善が見られたという報告もあります。

おわりに

「セネストパチー」は、またその病態についてははっきりしておらず、コンセンサスが十分に定まっている状態像ではありません。

しかし、その中には他の統合失調症やうつ病などの精神疾患に伴うものや、体感異常が単独で出現するものなど、様々なケースがあります。

口腔内セネストパチーは、高齢者に多く、歯科受診などを契機に精神科に受診されることもあります。

まとめ

セネストパチー(体感異常症)は診断基準の定まった状態像ではない
統合失調症など、様々な疾患にともなって出現することがある
単独で出現する「広義のセネストパチー」もある
我が国では、いくつかの向精神薬が有効であった報告がある

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

1)井川ら, 向精神薬が著効した口腔内セネストパチーの3例, 日本口腔顔面痛学会雑誌, 2017 , Vol 10-1 , p17-22

2)阿部ら, 口腔内セネストパチーの1例,北海道歯学雑誌, 2014, Vol34-2, p127-131

3)杉浦寛奈,都甲崇, 山本かおり 他: アリピプラゾールが奏効したセネストパチー(妄想性障害)の1 例.精神医学 50: 449-452, 2008

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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