【精神科医が解説】精神科入院における隔離・拘束の要件とは?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、精神科病床における隔離・拘束といった行動制限に必要な条件と注意すべき点について解説していきます。

精神科病床における行動制限

精神保健福祉法で定められた精神科の入院では、病状が不安定であるためにやむを得ず隔離や拘束といった行動制限が必要になることがあります。

こうした入院患者の処遇については、精神保健福祉法の「第四節 精神科病院における処遇等」という節に記載がなされており、第三十六条において以下のように定められています。

第三十六条 精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。

精神保健福祉法

この処遇については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、詳細な取り決めがなされています。

「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」の文面を見ながら、詳しくみていきましょう。

隔離について

まずは、隔離についてみていきましょう。

基本的な考え方

隔離がなされる場合の考え方については以下のように記されています。

一 基本的な考え方

(一) 患者の隔離(以下「隔離」という。)は、患者の症状からみて、本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合に、その危険を最小限に減らし、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われるものとする。

(二) 隔離は、当該患者の症状からみて、その医療又は保護を図る上でやむを得ずなされるものであつて、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。

(三) 十二時間を超えない隔離については精神保健指定医の判断を要するものではないが、この場合にあつてもその要否の判断は医師によつて行われなければならないものとする。

(四) なお、本人の意思により閉鎖的環境の部屋に入室させることもあり得るが、この場合には隔離には当たらないものとする。この場合においては、本人の意思による入室である旨の書面を得なければならないものとする。

要するに、患者の症状によって、本人や周囲に危険が及ぶ場合に、やむを得ず行う処置であり、見せしめや懲罰として行うものではないということです。

ちなみに(三)の十二時間を超えない隔離については、精神保健指定医でない医師の指示でも行うことができます

指定医がしばらく不在にしているような場合、「一時的に解除してまた隔離を行えばいいのでは?」という疑問もあるかもしれません。とはいえ、非指定医の指示による隔離を断続的に続け、実質の長時間隔離にするようなことは、望ましくないでしょう。

また、病院によっては患者本人の意思で閉鎖環境に入室してもらう(希望隔離)こともありますが、この場合は書面での同意が必要になります。

対象となる患者

隔離が認められる患者については、以下のような5つの状態像である場合になります。

隔離の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、隔離以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。

ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合

イ 自殺企図又は自傷行為が切迫している場合

ウ 他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合

エ 急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合

オ 身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場合

遵守事項

遵守事項として、以下のような項目が定められています。

(一) 隔離を行つている閉鎖的環境の部屋に更に患者を入室させることはあつてはならないものとする。また、既に患者が入室している部屋に隔離のため他の患者を入室させることはあつてはならないものとする。

(二) 隔離を行うに当たつては、当該患者に対して隔離を行う理由を知らせるよう努めるとともに、隔離を行つた旨及びその理由並びに隔離を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。

(三) 隔離を行つている間においては、定期的な会話等による注意深い臨床的観察と適切な医療及び保護が確保されなければならないものとする。

(四) 隔離を行つている間においては、洗面、入浴、掃除等患者及び部屋の衛生の確保に配慮するものとする。

(五) 隔離が漫然と行われることがないように、医師は原則として少なくとも毎日一回診察を行うものとする。

(一)に関しては、隔離室に複数の患者を入室させたり多数室に患者を隔離することは認められないということです。

また、隔離中は最低一回は医師の診察が必要になります。

身体拘束について

次に身体拘束についてみていきましょう。

基本的な考え方

(一) 身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする。

(二) 身体的拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限であり、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。

(三) 身体的拘束を行う場合は、身体的拘束を行う目的のために特別に配慮して作られた衣類又は綿入り帯等を使用するものとし、手錠等の刑具類や他の目的に使用される紐、縄その他の物は使用してはならないものとする。

身体拘束に関しては、隔離よりもさらに制限の程度が強いため、なるべく早くほかの方法に切り替えるようにしましょうと書かれています。

身体拘束を長期間継続すると、廃用や血栓症など様々な障害の原因となりうるため、極力短時間で済むような努力が必要になってきます。

対象となる患者

身体拘束の対象となるのは、以下の3つの状態像の場合です。

身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。

ア 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合

イ 多動又は不穏が顕著である場合

ウ ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合

遵守事項

(一) 身体的拘束に当たつては、当該患者に対して身体的拘束を行う理由を知らせるよう努めるとともに、身体的拘束を行つた旨及びその理由並びに身体的拘束を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。

(二) 身体的拘束を行つている間においては、原則として常時の臨床的観察を行い、適切な医療及び保護を確保しなければならないものとする。

(三) 身体的拘束が漫然と行われることがないように、医師は頻回に診察を行うものとする。

身体拘束中には、「頻回に」診察を行う必要があります。定義が曖昧ではありますが、一般的な精神科病院では、朝と夜など、2回以上の診察を行っているところが多いようです。

おわりに

隔離拘束の要件について、以下に表にしてまとめてみました。

隔離・拘束の要件 精神科入院

隔離や拘束は、患者さんの行動を制限し自由を奪う処置です。ですから、上に示したような要件を守り、みだりに行動制限を行わないことは基本になってきます。

また、行動制限を行う場合は、常にほかに代替策がないか、そして早期解除に向けた方策がないかを考えていくことが重要です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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