【精神科医が解説】うつ病と適応障害の違いとは?治療方針の違いも解説します

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、「うつ病と適応障害の違い」について解説していきます。

うつ病と適応障害

「仕事やプライベートでストレスがかかって、精神的に落ち込んでしまった・・・」

こうした経験は、誰しも味わったことがあるはずです。

中には体調を崩し、精神科や心療内科を受診する人もいるかもしれません。そんなとき、医師から「適応障害」という病名が伝えられることがあります。

「適応障害って何?」「うつ病なら聞いたことあるけど、どこが違うの?」と思う人もいると思います。

どちらも、精神科の診断基準に乗った病名ではあるのですが、症状だけを見ると似ていることもあり紛らわしいのが実情です。

その違いについて説明していきます。

適応障害とは

適応障害の診断

適応障害とは、英語では「adjustment disorder」と呼ばれます。

要するに、強いストレスがかかり、環境に適応(アジャスト)できなくなってしまうことで、様々な症状が起こってしまう病気のことです。

DSM-5と呼ばれる有名なアメリカの精神疾患の診断基準にも、適応障害の病名が載っており、その内容は要約すると以下のようなものになります。

A. はっきりしたストレス因に反応して、その始まりから3ヶ月以内に情動面あるいは行動面の症状が出現。
B. これらの症状や行動は以下のうち1つまたは両方を満たす

(1)ストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛

(2)社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害

E. そのストレス因が終結すると、症状がその後さらに6ヶ月以上持続することはない。

つまり、ストレス因に反応して起こってしまう病気であることが特徴的です。

またICD-10と呼ばれるWHOの診断基準にも、適応障害の病名が載っています。そこでは「F4」と呼ばれる「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」という分類に入っており、やはりストレスに関連して起こる疾患であることがわかります。

治療方針

適応障害の場合は、基本的に「環境調整」と呼ばれる方法が第一の選択肢になります。

これはつまり、原因となっているストレス因を取り除いてあげることで、症状の改善を目指すことです。

例えば上司からの圧力がストレスになっているのであれば、部署を移動したり、人間関係を調整してもらったりすることで、症状がよくなることが多いです。時に休職などの処置が必要になることもあります。

また、ストレスに対処する方法は人それぞれ異なり、ストレスに対する脆弱性も人によって異なります。一度休職しても、同じ環境に戻ってすぐに再発してしまうことは避けたいことです。

そのため、なぜ適応できなかったのかを分析し、ストレスを乗り切るスキルを身に着けていくことも大切になってきます。

適応障害という病名に保険が通っている薬はなく、基本的に薬は必要なものではありませんが、不眠や抑うつなどの症状が強い場合は、対症療法的に薬物療法を行うこともあります。

ただ、適応障害の治療の原則は環境調整にあります。

うつ病とは

うつ病の診断基準

一方、よく知られた「うつ病」は、「気分障害」に分類される病気です。ICD10において、F3「気分障害」のカテゴリーに入っており、適応障害とはカテゴリーが違っています。

DSM-5における診断基準は、以下のようになっています。

A: 以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が同一の2週間、ほとんど毎日、1日中存在し、 これらの症状のうち少なくとも1つは、1 抑うつ気分または 2 興味または喜びの喪失である。

1. 抑うつ気分。

2. 興味、喜びの著しい減退

3. 食著しい体重減少、あるいは体重増加

4. 不眠または睡眠過多。

5. 精神運動性の焦燥または制止

6.易疲労性、または気力の減退。

7. 無価値観、または過剰あるいは不適切な罪責感

8. 思考力や集中力の減退、または決断困難

9. 死についての反復思考

B: 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

C: ほかの物質や病気によるものではない

うつ病では、抑うつ気分や興味喜びの喪失といった症状が2週間以上持続的に存在していることが特徴です。

適応障害と異なり、ストレス因の有無は診断には関係ないことがわかります。

ストレスがなくても発症する

これはよく誤解されがちなのですが、ストレスがなくてもうつ病を発症することがあります。

患者さん本人の性格や気質、遺伝的要因など、内的な要因から、うつ病を発症することもあります。少し前までは「内因性うつ病」などと呼ばれていたようなものになります。

適応障害の場合は、必ずストレス因があることが条件ですが、うつ病の場合はストレスがかかっていなくても発症することがあるのです。

抑うつ症状はほぼ常に持続する

適応障害ではストレスから離れると症状が改善することが診断の条件ですが、うつ病の患者さんでは必ずしもそうとは限りません。

例えば適応障害の患者さんは、ストレス因から離れると速やかに症状がよくなり、「仕事には行けないけど休日は友達と旅行にいって思いっきりエンジョイできる」といったこともありえます。

しかしうつ病では、「2週間以上にわたってほとんど毎日1日中、抑うつ気分や興味・喜びの喪失などの症状がある」ことが診断の条件です。

ですから、うつ病の患者さんでは、ストレスから離れたとしても気分が改善するわけではありませんし、旅行に行ってもあまり楽しめない状態になっています。

治療方針

うつ病の場合は、抗うつ薬による薬物療法が有効であることが多いです。薬物療法での改善が難しかったり、重症で急を要したりする場合は、電気けいれん療法などの薬物療法とは別の治療を行うこともあります。

明らかにストレス因があり、それがうつ病発症のきっかけになったのであれば、適応障害と同じように環境調整を行うことも有効でしょう。

おわりに

「うつ病」と「適応障害」の違いについて、解説してきました。

同じ「抑うつ状態」をきたしうる2つの病気ですが、両者は診断や治療において大きく異なる部分もあります。

適応障害の特徴は、ストレス因から離れると可逆的に改善することです。しかしストレス因が強大すぎたり、なかなか取り除けない場合には、うつ病に移行してしまうこともあります。

ストレス因の調整だけで改善が見込めるのか、それとも薬物療法などの治療が必要なのか。このあたりの見極めは精神科医にとっても難しいことがあります。

症状にお困りの場合は、気軽に医師に相談してみることをお勧めします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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