はじめに
こんにちは。精神科専攻医のやっくんと申します。今回は、研修医の方向けの記事です。
2020年度から、初期臨床研修における必修科目が増え、精神科が必修科目に加わりました。
近年はQoMLに対する意識の高まりからか、精神科を志望する研修医の方も増えているようですが、中には「俺は外科に入局するのに、精神科なんか回ってどうすんの?」という方もいるでしょう。
でも必修で回る必要がある以上、研修したからには何かを学んで持ち帰ってほしいと僕は思っています。
この記事では、精神科医の僕が、「精神科に興味がない人、進まない人」が「精神科研修で何を学ぶべきか」をまとめてみました。
精神科研修で学ぶべきこと
1.患者さんへの接し方を学ぶ
精神科では、うつ病や統合失調症、認知症など、様々な精神疾患の患者さんを診ることになります。
時には「電磁波で攻撃されている!なんとかしてくれ」と訴えられたり、「私はもう死ぬしかないんです」と悲観的な人を相手にしたり。
突然暴言を吐かれたり殴られたりすることだってあります。
言い方は悪いですが、精神科では「なかなか話が通じない」っていうことが多々あるのです。
精神科医は普段からそうした患者さんと接していて、こうしたことには慣れっこです。
だからこそ、どんな患者さんに接しても動揺せず、訴えを聞き、適切に対応するスキルを身につけています。
でも、精神科で学ぶこうしたスキルは、他の科でも活きてくるはずです。
というのは、身体疾患の患者さんにも、必ず「心のダメージ」があるはずだからです。
たとえば、余命宣告をされて悲嘆に暮れている患者さんだったり、病状悪化でせん妄となり、不穏になっている患者さんだったり。
体の病気と心のダメージは、切っても切り離せません。
あなたが「ガンで1年後に死にます」と突然いわれたら、きっと心を病みますよね?
その時、主治医が冷淡で心に寄り添ってくれなかったらさらにショックだと思います。
だからこそ、「心のケア」は精神科医だけではなく、すべての科の医師が身につけておくべきなのです。いや、もっというなら、全ての人間が身につけておくべきです。
人生において、人の心に寄り添うスキルは必ず必要になります。
「心のダメージを受けた人間に、どう接するか」。精神科研修は、そうしたトレーニングを積むのにぴったりの場所だと思います。
2. 精神科のお薬のタイプをざっと理解しておく
せっかく精神科を回るのであれば、精神科のお薬に関しても簡単に理解をしておきましょう。
精神科で用いる薬の種類としては、ざっと分けて抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬、抗てんかん薬などがあります。
それぞれの微妙な薬剤調整に関しては、精神科専門医でも議論が分かれるところなので、研修医の時点で理解しようとしなくても構いません。
ただ、抗精神病薬(リスペリドン、セロクエル)などに関してはせん妄患者に使うことが多いですし、睡眠薬に関しても他の科で処方することが多いはずです。
このジャンルの薬にはどのような作用があって、どういう目的で使っているのか。そんな「大雑把な雰囲気」「薬のキャラクター」のようなものを掴めるようになるといいと思います。
3.「調子が悪い人」のイメージをつける
精神科に入院している患者さんは、それなりに「調子が悪い」人が多いです。外来では対応できないと判断されて入院しているのですから、当然といえば当然です。
なかには抑うつ状態から希死念慮が生じていたり、不安焦燥が強く落ち着きなく過ごしている方もいます。
そうした調子の悪さというのは、「言動や外見」などに表面化してくることが多いです。
たとえば「礼節保てない」「整容保てない」「表情険しい」などは、精神科のSOAPの「О」で客観的な所見として書かれることが多いです。
これは、調子の悪さが表情や行動などに表れているというサインです。
他の科では、画像検査や血液検査など、調子の良しあしを判断できる指標がありますが(「CRPが高いな。まだ炎症が続いている」など)、精神科では患者さんの言動などから状態を判断するしかありません。
「この人は精神症状が良いな、悪いな」というのを、問診や言動の観察から判断できるようになると、「この人は一度精神科にもかけた方がいいかもしれない」といった判断がしやすくなると思います。
4.「ゆっくりとした時間の流れ」を体験する
精神科の病棟においては、比較的時間がゆっくり流れています。
病院にもよりますが、たとえば「〇〇分以内に手術しないと助からない!急げ!」といった分秒刻みのイベントというのはあまりありません。
そもそも、一般的な精神科の入院期間は短くても1-3か月程度以上であることが多く、なかには、何年間も入院しているような患者さんもいます。ほかの科と比べてだいぶゆっくりなペースです。
また、医師の働き方に関しても、比較的規則正しい勤務形態が多く、日中は仕事がおわったらのんびり過ごし、17時になるとさっさと帰っていく先生も多いです。(忙しいところは忙しいです)
これは別に、精神科医が「さぼっている」わけではなく、精神疾患の治療には「ゆったりとした心構え」が必要なことが原因と言えます。
たとえば抗うつ薬は、効果が発現するまでに数週間程度かかると言われています。そのため、ある程度ゆったり構え、患者さんの症状をじっくり時間をかけて追っていく必要があるんです。
初期研修は、時間に追われ多忙な日々だと思います。精神科研修では「こういう時間の流れもあるんだなぁ」と、すこしリラックスした時間を過ごすのも大切だと思います。
実際、私が初期研修した時も、研修医の仕事はほぼ午前で終わり、あとは待機といった感じでした。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
精神科は比較的特殊性の高い診療科ですが、近年研修医の間でも人気が集まっています。
すでに他に進む予定の方も、精神科で学ぶことのできる「心のケア」のスキルや患者さんとの接し方を学ぶといいと思います。
また呼び出しなども少なく比較的ゆっくりしているので、忙しい初期研修の中で少しゆっくりする時間としてもいいと思います。
「つまらないと思いながら過ごす」ではなく、「なるほどなぁ」と新たな発見ができるような、有意義な時間を過ごせることを願っています。
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