【精神科医が解説】カプグラ症候群って何?

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はじめに

こんにちは。精神科医のやっくんです。

ある日、身近な人がそっくりな他人に入れ替わってしまうー。歴史モノのドラマなんかでは、替え玉はよく登場しますけれど、そんなことが実際に起こったら恐怖ですよね。

今回の記事では、そんな「替え玉」妄想という特徴的な症状がおこる「カプグラ症候群」という病気について、解説していきます。

カプグラとは

「カプグラ症候群(Capgras syndrome)」とは、「身近な人(家族や友人など)が、そっくりな誰かと入れ替わってしまった」と思い込んでしまう特異な妄想が出現する症候群です。

脳科学辞典によると、1923年にフランスの精神科医ジョセフ・カプグラによって最初のケースが報告されたのが最初であったようです。

その報告では、50代の女性は「彼女自身や病院の看護師に替え玉が存在している」といった妄想を訴えていたそうです。

当初の報告では、「ソジーの錯覚」(フランス語で瓜二つの人という名詞)という名前が付けられたこの妄想は、その後も次第に報告がなされていき、「カプグラ症候群」「カプグラの妄想」などと呼ばれるようになりました。

カプグラの原因は?

「替え玉に入れ替わっている」という妄想は、統合失調症やうつ病など、おもな精神疾患で出現する妄想の中でも比較的レアだと言われています。

どのような病気で起こり、どういう原因で起こるのでしょうか。インターネット上の「脳科学辞典」ではこのように記されています。

カプグラ症候群は妄想型統合失調症に多いが、認知症頭部外傷で見られることもある。成因論的には、1960年代までは対象の妄想的否認や感情的判断などと言った心因を重視する見解が支配的であったが、1970年代以降、器質因を重視する立場が出現し、知覚相貌認知の障害として解釈しようとする立場が優勢となっている。大脳の右半球や前頭葉の病変との関連が指摘され、カプグラ症候群を認知心理学的に説明する仮説も提唱されている。

脳科学辞典 「カプグラ症候群」

要するに、統合失調症で多いようですが、認知症などの器質性の疾患(脳自体の器質的な損傷で起こるような病気)で見られることも多いようです。

カプグラ症候群の報告例全体のうち、約25~40%程度において器質因の合併が認められたとの報告もあります。

統合失調症は、妄想がみられる典型的な病気ですが、うつ病などの気分障害でも妄想が起こることが知られています。

私は一度、うつ病の高齢女性にこの「カプグラ妄想」が出現するケースを経験したことがあります。

カプグラの原因としては様々な説が唱えられていますが、「相貌失認」(人の顔が認識できなくなってしまう)という症状に妄想的な色付けがされている状態なのではないかという説も言われています。

「人の顔」を見るのは眼の役割ですあが、その情報を処理するのは脳であり、その情報をもとに「この人は誰か」と認識するのも脳の役割です。認知症が進むと、家族のことを認識できなくなってしまうこともありますよね。

器質性の脳の障害によってカプグラが起こるのであれば、カプグラの病態には人を認識する脳の経路が関与しているのかもしれませんね。

カプグラの治療は?

カプグラ症候群の治療法は、今のところ研究が少なく、十分なエビデンスのある治療法が確立されているとは言い難いようです。

しかし、「替え玉妄想」という言葉が示す通り、こうした症候群を「妄想」ととらえるのであれば、妄想をコントロールするような薬を使うことが期待できるのかもしれません。

海外の文献によると、こうした症状の治療に、「統合失調症」の妄想や幻覚に対して効果的な「抗精神病薬」を使うことが一般的のようです。

(Barrelle A, Luauté JP. Capgras Syndrome and Other Delusional Misidentification Syndromes. Front Neurol Neurosci. 2018;42:35-43. )

ほかには、脳自体の損傷が原因の病気からカプグラが出現している可能性が高い場合は、その元の疾患を治療することも効果が望める可能性があります。

いずれにせよ、確立した治療法が乏しい状況なので、現場では手探りで治療をしていく形になるのでしょう。

類似の疾患

フレゴリ症候群

「カプグラ症候群」に似た症状をきたす症候群に、「フレゴリ症候群」「フレゴリの錯覚」といった病気もあるのでここでチェックしておきます。

「フレゴリ症候群」は、カプグラとは対照的に、特定の人が、無害な様々な人物に変装して現れているのではないかという妄想がみられることが特徴的です。

「フレゴリ」とは、早着替えや変装を得意としたイタリアの喜劇俳優にちなんで名付けられたそうです。

筑波大学のYoutuber精神科医、松崎朝樹先生の動画にも短くまとめられているのでご紹介しておきます。

まとめ

参考になりましたでしょうか。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

まとめ

✓カプグラ症候群では、替え玉妄想が出現する!

✓統合失調症が多く、器質性の脳疾患や気分障害などでも起こりうる!

✓原因や治療は確立されていないが、抗精神病薬などを用いることもある!

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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