はじめに
こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。
今回は、「遅発性パラフレニー」という病気について解説していきます。
「遅発性パラフレニー」という病気について精神科医が解説します!
遅発性パラフレニーとは
「遅発性パラフレニー」(late paraphrenia)は、1955年にイギリスの精神科医のRothが報告した疾患概念です。
Rothは、60歳以上といった比較的高齢の人に、妄想(時に幻覚)が出現し、統合失調症のように思考障害や人格水準の低下が目立たない一群をこのように呼びました。
同じように「幻覚」「妄想」などが見られやすい病気には、統合失調症がありますが、これは基本的に10〜20代にかけて発症することが多い病気です。ですから、高齢者と呼ばれる方々に発症するのは典型的ではありません。
こうしたこともあり、統合失調症とは少し区別された病気として呼ばれるようになったと思われます。
現代のICD-10やDSM-5などの診断基準では、「遅発性パラフレニー」という病名は項目としては載っていません。
ただICD-10では、「F22.0 妄想性障害」の欄には、「(含)遅発性パラフレニー」と書かれており、こうした疾患の中に包摂されると考えられます。
確かに精神科の臨床をしていると、これまで精神科に受診したことがなかった60代〜70代の高齢者と言われる人々の中に、「隣人が悪さをしてくる」といった妄想を訴えて病院に連れてこられる人たちがいます。
統合失調症のように、思考がまとまらなかったり、幻聴が聞こえたり‥‥といった症状は目立たず、デイケアで自分が迫害を受けている、隣人が悪口をいっているといった被害妄想を訴える患者さんたちがいらっしゃいます。
遅発性パラフレニーの臨床的特徴
Rothによると、遅発性パラフレニーは女性に圧倒的に多く(10:1)、社会的孤立といった体系化された妄想が特徴的であると述べられています。
臨床現場でも、独居の高齢女性が隣人に被害妄想を抱いてしまい、家族や介護職員にしきりに訴えるといったシーンをよく目にします。
高齢者が独居で孤立した生活を送ることは、大きな不安がつきまとうことが容易に想像されます。
私の個人的な考えですが、妄想が形成される背景には、こうした孤独な生活による不安感があり、周囲に対して過敏になっている状況があるのではないでしょうか。
それが何かをきっかけに「周囲への被害妄想」といった妄想に進展するのではないかと思っています。
認知症の妄想?
上述した遅発性パラフレニーの特徴では、「器質的病変との関連が疑われる」という項目がありました。これは要するに、脳自体のオーガニックな変化が影響しているのではないかということです。
ちなみに脳器質性の疾患で代表的な「認知症」においても、妄想が出現することが知られています。
アルツハイマー病では「物盗られ妄想」が有名ですが、レビー小体型認知症(DLB)ではもっとも妄想に親和性が高いと言われており、幻覚や妄想が見られることがあります。
ですから、高齢者に妄想が出現した場合は、DLBなどを鑑別に入れて認知症の精査を進めていくことになります。
どのように対応する?
まず、妄想に関しては、事実なのか妄想なのかを見極めるために家族や関連する介護スタッフなどに尋ね、事実関係を確認します。
遅発性パラフレニーの妄想は、隣人や家族といった近所を妄想の対象とすることも多く、果たして事実なのか妄想なのか区別が難しいこともあります。認知機能のチェックも必要でしょう。
行動化が酷い場合などは、場合に応じて抗精神病薬を用いて妄想の治療を試みることがあり、有効であったとの報告もあります。ただ、抗精神病薬は副作用の点もあり高齢者にはあまり使いたくないのが本音です。
また、上述したように社会的孤独などが関連している可能性もあります。
居心地の良い施設やデイケアを見つけたり、家族の見守りを強化したりといったソーシャルワークによって症状や問題が緩和されることもあり、周囲の支援が大切だと言えます。
おわりに
今回は、「遅発性パラフレニー」という疾患概念についてご紹介しました。
これまで特にかわりなく過ごしていた高齢者に妄想が出現すると、家族も慌ててしまうことがあるでしょう。
このような症状が出た場合は、認知症などの鑑別も含めて精神科に一度相談をすることが望ましいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
遅発性パラフレニーでは高齢発症の妄想などがみられる
社会的孤独、女性などがリスクと言われている
認知症との鑑別も必要になる
薬物療法の報告もあるが、社会的支援も大切になる
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