【精神科医が解説】認知症における夕暮れ症候群とは?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、認知症患者によくみられる「夕暮れ症候群」という言葉について解説していきます。

この記事の内容

夕暮れ症候群とは何か?精神科医が解説します

夕暮れ症候群とは

「夕暮れ症候群」とは、認知症患者によくみられる一連の症状のことをいいます。英語では「sundown syndrome」「sundowning」などといわれることがあります。

アルツハイマー病などの認知症の患者さんでは、夕暮れ時になると精神的に不安定となることがあります。

「家に帰りたい」といって落ち着かなくなったり、不安が強くなり興奮状態となるなど、様々な精神的不調をきたしてしまうことがあります。

こうした一群の症状を、その特徴ある症状から「夕暮れ症候群」と呼びます。

「夕暮れ症候群」という診断は、ICD-10やDSM-10といった精神科の病気の診断基準に厳密に定義されているわけではありませんが、認知症に関わる支援者がよく耳にする言葉です。

夕暮れ症候群で起こる症状の例

夕方になると「家に帰らないと」といって荷物をまとめ始める

介護スタッフや家族に対して、攻撃的となってしまう

夜になると不安が強くなり、落ち着かない様子になる

なぜ起こるのか

「夕暮れ症候群」は、認知症患者によくみられることが知られていますが、単一の原因というものは特定されていません

認知症の患者さんでは、生活のリズムが乱れがちになったり、今は自分がどこにいて、どのような時間なのかがわからなくなるといった見当識の障害がみられることがあります。ベースとしての脳の機能が低下しているわけです。

また、難聴など、身体の機能にも不自由を抱えていることが多くあります。

このように、認知症患者に生じている様々な要因が、夕暮れ症候群の発症に影響しているのではないかといわれています。

また高齢の認知症患者では、「夜間せん妄」といって主に夜間に寝ぼけたようになり、日時が分からなくなったり、不穏・興奮をきたしたり、幻覚などが生じたりすることもあります。

「夕暮れ症候群」の中には、このように「せん妄」といえる状況が混ざっている可能性もあります。

どのように対処するのか?

夕暮れ症候群に対する治療に関しては、十分に知見が蓄積されているわけではなく、科学的なエビデンスとしては不十分なものが多いです。

ですが、一般的に以下のようなアプローチをすることがあります。

非薬物療法

 まず薬物治療以外の方法として、概日リズムを調整するために、規則正しい生活スケジュールや、睡眠と覚醒のリズムを保つことが有効な可能性があります。

また日光を浴びたり、夕方に室内光浴びるといった光療法の効果を報告した研究もあります

アロマテラピーや音楽といったリラックス方法も、夕暮れ症候群の予防に寄与する可能性もありますが、十分な科学的証拠はまだ集まっていません。

薬物療法

夕暮れ症候群に対して、メラトニン作動薬という薬が効果があったという研究がいくつかあります。

脳では、メラトニンという物質が睡眠と覚醒のリズムに関わっているといわれており、このメラトニンの受容体に作用することで、睡眠のリズムを整えるお薬です。

メラトニンは、せん妄に対しても予防効果が認められており、夕暮れ症候群に対して効果があることは不思議ではありません。

他には、認知症に対して用いる抗認知症薬が、夕暮れ症候群のような行動・情緒の障害を改善させる可能性もあります。

また臨床現場では、不穏・興奮や幻覚などに対して抗精神病薬(統合失調症などの治療薬)を用いることもありますが、高齢者に用いる場合は副作用にも注意が必要です。

まとめ

  • 夕暮れ症候群は、認知症高齢者によく起こる行動や情緒の障害。
  • 夕方や夜になると決まって精神的に不安定となり、周囲の介護負担も引き起こしかねない
  • 生活リズムを整えたり、必要に応じて薬物療法を行ったりして対処していく

参考文献

1)Canevelli, Marco et al. “Sundowning in Dementia: Clinical Relevance, Pathophysiological Determinants, and Therapeutic Approaches.” Frontiers in medicine vol. 3 73. 27 Dec. 2016

2)ovell BB, Ancoli-Israel S, Gevirtz R. Effect of bright light treatment on agitated behavior in institutionalized elderly subjects. Psychiatry Res (1995) 57(1):7–12. 10.1016/0165-1781(95)02550-G

3)Asayama K, Yamadera H, Ito T, Suzuki H, Kudo Y, Endo S. Double blind study of melatonin effects on the sleep-wake rhythm, cognitive and non-cognitive functions in Alzheimer type dementia. J Nippon Med Sch Nippon Ika Daigaku Zasshi (2003) 70(4):334–41. 10.1272/jnms.70.334

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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