【精神科医が解説】炭酸リチウム(リーマス)がACE阻害薬・ARBと併用注意の理由は?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、「気分安定薬であるリチウムがACE阻害薬・やARBと併用が注意となっている理由」について解説していきます。

この記事の内容

リチウムがなぜACE阻害薬やARBと併用注意となっているのか理由を考えてみます!

リーマス使用時の注意点

双極性障害の治療薬である炭酸リチウム(商品名リーマス)は、双極性障害の気分エピソードに対して豊富な科学的根拠を持った優秀な薬剤です。

しかし、デメリットの1つに、「治療域と中毒域が接している」という点があり、使い方を誤るとリチウム中毒を引き起こし、様々な副作用が起こってしまうことが挙げられます。

また薬剤の飲み合わせにより、リチウム中毒を引き起こしやすくなることがあります。なかでも、NSAIDs(ロキソニンなど)やACE阻害薬・ARBとの併用については有名です。

炭酸リチウムの相互作用:併用注意

炭酸リチウム錠の添付文書から、併用注意の薬剤を一部抜粋したものです。

アンジオテンシン変換酵素阻害剤(エナラプリルマレイン酸塩等)

アンジオテンシンII受容体拮抗剤 (ロサルタンカリウム等)

臨床症状・措置方法 リチウム中毒を起こすとの報告がある. (「副作用 リチウム中毒」の項参照)

機序・危険因子:上記薬剤がアルドステロン分泌を抑制し, ナトリウム排泄を促進することにより, 腎におけるリチウムの再吸収が代償的に促進される可能性があるため, 血清リチウム濃度が上昇すると考えられる

出典:炭酸リチウム錠100「ヨシトミ」/炭酸リチウム錠200「ヨシトミ」 添付文書より一部抜粋改変

このように、添付文書上、リチウムはACE阻害薬やARB拮抗薬との併用が注意となっています。

併用注意である理由

添付文書を読むと、併用注意である理由には

  • アルドステロン分泌を抑制することでナトリウム排泄が促進される
  • それにより腎臓におけるリチウムの再吸収が代償的に促進される可能性がある
  • それによって血清リチウム濃度が上昇する

という3つの段階があることがわかります。

そもそもACE阻害薬やARBは、体内のRAA(レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系)と呼ばれるシステムに作用し、降圧作用などをもたらす薬です。

アンジオテンシンⅡという物質は、血管の収縮を引き起こしたり、副腎でのアルドステロン分泌を促進させます。このアルドステロンは、ナトリウムの再吸収を促進し、体内に保持させる方向に作用します。

つまりACE阻害薬やARBは、このシステムを阻害することで、Naを失う方向に傾かせるわけです。

で、そこでなぜリチウムが関係があるのでしょうか?。

リチウムとナトリウムの挙動

以前、「【精神科医が解説】炭酸リチウムが食塩制限患者に禁忌である理由は?」という記事でも解説しましたが、リチウムとナトリウムは挙動が似ているところがあります。

腎臓において、Naは近医尿細管で再吸収され、一定の恒常性を保つように調整されています。食塩制限患者のように、Naが不足している状態では、Naを再吸収して保持する方向に働きます。

しかしこの際、Naだけでなく、同じ一価の陽イオンであるLiが再吸収されてしまい、リチウムの濃度が上昇してしまうことがあります。

今回のケースでは、ACE阻害薬やARBによって、アルドステロン分泌を抑制し、ナトリウム排泄が促進されている状態です。

この際、Liの再吸収が亢進してしまう可能性があるために、リチウムの血中濃度を上げてしまう可能性があるということのようです。

疑問

一つ思ったことは、食塩制限患者の場合、ナトリウムの排泄を抑えるためにアルドステロン分泌は亢進していると思われるのですが、今回のACE阻害薬・ARB投与下の場合は、アルドステロン分泌が抑制されている状態だということです。

ただ、いくつかの文献を参考にした限りでは、アルドステロン分泌が抑制される中でNaの欠乏により、Liの再吸収が促されてしまうということのようです。

 アルドステロンの動態だけをみると一見対照的なケースにみられるのですが、どちらもそのまま行けば「Naの喪失・不足」という状態につながるという点では共通していますので、リチウムの再吸収に至る経緯としては納得はできます。

おわりに

リチウムとACE阻害薬・ARBの関係性について、解説してみました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

まとめ

  • なぜACE阻害薬やARBによって、リチウム中毒が起きうるか?
  • →上記薬剤や、アルドステロン分泌を抑制し、ナトリウム排泄が促進する
  • この状況下ではLiの再吸収が亢進してしまう可能性があるために、リチウムの血中濃度を上げてしまう!

参考文献

1)Zwanzger P, Marcuse A, Boerner RJ, et al.: Lithium intoxication after administration of AT1 blockers. J Clin Psychiatry 2001; 62: 208―209

2)林ら, 持続性アンギオテンシン II タイプ I 受容体拮抗薬の投与に伴い慢性リチウム中毒を呈した高齢者の 1 例, 日本老年医学会雑誌 / 53 巻 (2016) 3 号

3)Lehmann K, Ritz E. Angiotensin-converting enzyme inhibitors may cause renal dysfunction in patients on long-term lithium treatment. Am J
Kidney Dis. 1995 Jan;25(1):82-7.[2] Chandragiri SS, Pasol E, Gallagher RM.


4)Lithium ACE inhibitors, NSAIDs, and verapamil. A possible fatal combination. Psychosomatics. 1998 May-Jun;39(3):281-2.[3]

5)Handler J. Lithium and antihypertensive medication: a potentially dangerous interaction.J Clin Hypertens (Greenwich). 2009 Dec;11(12):738-42.

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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