【精神科医が解説】パニック障害と広場恐怖症の違いについて

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、「パニック障害と広場恐怖症の違い」について解説していきます。

この記事の内容

「パニック障害と広場恐怖症の違い」について解説します!

パニック障害や、広場恐怖症は、WHOが発行する診断基準「ICD-10」において「不安障害」といわれるグループに入る病気です。

その症状の類似からよく混同されがちですが、実は診断基準上は異なる定義の病気です。その違いをみていきましょう。

パニック障害とは

パニック障害とは、簡単に言うと、

「動悸・過呼吸・死への恐怖といった急激なパニック発作が、予知できない状況において突然、繰り返し起こる病気」になります。

突然激しい動悸や窒息感があらわれ、「死ぬかもしれない」というくらいの恐怖感を伴う発作が起こります。これをパニック発作と言います。

パニック障害の特徴は、このパニック発作がゲリラ的に襲ってくること。家で寝ていても、電車で移動していても、突然襲ってくるのです。

これはなかなかの恐怖体験で、自分ではコントロールできない発作に襲われると、「もう死んでしまうかも!」と思うくらい追い込まれてしまいます。救急車で運ばれてくる人もいるくらいです。

パニック障害では、状況に関係なく予期できないパニック発作(動悸、窒息感、死の恐怖など)が起こる!

動悸

広場恐怖症とは

一方で、広場恐怖症は、「恐怖症性不安障害」として分類される病気です。

これは高所恐怖症とか、雷恐怖症といった恐怖症の仲間ですね。英語では「agoraphobia」と言い、「アゴラ」は「広場」、「フォビア」は恐怖症という意味です。

「公共交通機関、広場や人ごみの中、一人での外出」といった、安全な場所に逃げたり、支援を得たりするのが難しい場所などの状況下で、不安や恐怖を感じてしまうものです。

 実は広場恐怖症は、先述したパニック障害の方に起こりやすい病気です。何度もゲリラ的なパニック発作に襲われると、次第に「発作がここで起きたらどうしよう」と不安になってしまうからです。

ただ、この不安の種は必ずしもパニック発作である必要はなく、「何か困ってしまう事が起きた時に逃げられない・援助が得られない」といった状況であればOKです。いろいろな不安のパターンがあり得ます。

もちろん、広場恐怖の方は、そういった広場的な状況に置かれると恐怖症の症状としてパニック発作を起こしてしまうこともあります。

ただ、純粋なパニック障害と決定的に違うのが、状況によらずに起こっているわけではないこと。あくまでも広場という環境によって発作が起こるのであれば、それは単なる恐怖症の症状であると言えます。

広場恐怖症は、すぐ脱出できない・助けを得られない状況で強い不安や恐怖を感じてしまう病気。パニック障害に伴って起こることが多い。

パニック障害と広場恐怖

ということで、病気としては別物だということはおわかりいただけたでしょうか。

しかしここでポイントになるのは、「パニック障害と広場恐怖の併発」というところです。

先ほどもお伝えしたように、パニック発作は死ぬのではないかと感じてしまうほど激烈で恐怖感を伴うものです。

なのでパニック障害の方は、「逃げられないところで発作が起きたらどうしよう」といった不安を往々にして抱きます。これを「予期不安」といい、パニック障害ではよく見られる症状です。

電車や人ごみ、美容院や歯医者など、すぐに逃げられないところで激烈な発作に襲われることを恐れ、広場恐怖的な状況を回避するようになるわけです。つまりパニック障害の患者さんでは、広場恐怖を合併しやすいのです。

では、もし合併した場合はどう診断をつけたらいいのでしょうか。ICD-10の「F41.0 パニック障害」の診断ガイドラインには、このように書いてあります。

一定の恐怖症的状況で起こるパニック発作は、恐怖症の重篤さの表現とみなされ(中略)パニック障害それ自体は、F40.-のいかなる恐怖症も存在しない場合にのみ診断すべきである

出典:ICD-10 精神および行動の障害 一部改変

一定の状況で起こる発作は、あくまでも恐怖症の症状ということが書いてあります。そして、「パニック障害(F41)」というコード自体は、恐怖症が存在していれば診断するのは不適切ということになりますね。

広場恐怖症の補足

では、よくあるはずの広場恐怖を伴うパニック障害はどこに分類されるのか。ICD-10における広場恐怖症の最後の4行には、このように記載があります。

さらに、広場恐怖的な状況にある際は多くの場合、パニック障害F41.0の有無が、第5桁のコードによって記録される

F40.00 パニック障害を伴わないもの

F40.01 パニック障害を伴うもの

(含)広場恐怖を伴うパニック障害

出典:ICD-10 精神および行動の障害

ということで、「広場恐怖を伴うパニック障害」については、「F40」の広場恐怖症の中に分類されるということになります。

DSMにおける両者の違いと併記

ちなみにICDと並んでよく用いられる、米国精神医学会の診断基準DSM-Ⅳでは、以前はパニック障害に関連したものとして広場恐怖症が定義されていました。広場恐怖は、パニック障害に伴うものだと考えられていたからです。

しかし、パニック障害を伴わない広場恐怖も一部みられるということがわかってきたことから、現在のDSM-5では、2つの病気は別の疾患として定義がされています。

DSMにおける定義の違いですが、まず持続期間について、DSM-5では、パニック障害は1カ月以上症状が継続していることが必要、広場恐怖症は6カ月以上継続することが典型的、と書いてあります。

また、「広場恐怖症はパニック症の存在とは関係なく診断される」としたうえで、パニック症と広場恐怖症のどちらの基準も満たした場合は、両方の診断が選択されるべきと記しています。

こんな時は 

先ほど申し上げたように、パニック障害の本質は予知できずに起こると書かれています。「広場(もしくは同様の環境)」でのみパニック発作が起こるのであれば、それは単なる広場恐怖症です。

ICDの診断基準にも「一定の恐怖症的状況で起こるパニック発作は、恐怖症の重篤さの表現とみなされ」と書いてあります。

これはDSMにおいても同じで、パニック障害は「特定の恐怖対象や状況に反応して生じたものではない」と書かれています。

なので、診断基準を読み解いていくと、とある状況にだけ限定してパニック発作が出現したとしても、それだけをもって「パニック障害」が併存しているとは言えません。

終わりに

「パニック発作」自体は、パニック障害のみならずいろいろな病気で出ることがあります。

その中で、パニック発作がゲリラ的に出てしまう病気がパニック障害で、そのゲリラ性が予期不安を巻き起こし、広場恐怖を生んでしまうことが多いわけです。

SSRIや抗不安薬などの薬物療法や、暴露反応妨害法などの行動療法的アプローチを行っていくことが主になると思います。

以下に要点をまとめてみました。

まとめ

  • パニック障害の本質は、「状況に関わらずパニック発作が出現する」ということ
  • 広場恐怖症は恐怖症の一種で、出口や援助がない状況下で強い不安を感じるが、パニック発作が起こるとは限らない
  • 広場恐怖症はパニック障害の予期不安で生じることが定番。ただ必ずしもそうとは限らない

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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