はじめに
こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。
今回は、ウェルニッケ・コルサコフ症候群について解説していきます。
この記事の内容
精神科医がウェルニッケ・コルサコフ症候群について解説します。
ウェルニッケ・コルサコフ症候群とは
ウェルニッケ・コルサコフ症候群とは、ビタミンB1の欠乏によって起こる一連の病気のことを指します。
大きく分けて、急性期に生じるウェルニッケ脳症と、後遺症として生じるコルサコフ症候群の二つを合わせたものになります。
ウェルニッケ脳症
ウェルニッケ脳症はビタミンB1(チアミン)が不足することで起こる病気です。
これにより、脳の中でも脳幹と呼ばれる生命の維持などの重要な役割を果たす部分に微小な出血がおこり、眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)やふらつき(失調性歩行)、意識障害という特徴的な三徴がみられます。
ビタミンB1は、脳の重要な栄養源であるブドウ糖を代謝するために必要なビタミンです。基本的に健康な人は、食事からこれを摂取することで生活しています。
このビタミンB1の欠乏は、アルコール依存症によるものが最も典型的ですが、妊娠女性のつわりや悪性腫瘍などで食事から十分に栄養が取れなくなったり、栄養の吸収ができなくなったりする病態でおこる可能性があります。
診断は先ほどの特徴的な症候のほかに、頭部MRIのT2強調像やFLAIR像において乳頭体・視床や第三・第四脳室、中脳水道周辺に高信号域を認めることが知られています。
治療はビタミンB1の点滴による大量投与が第一選択ですが、この際、栄養失調だからと言って糖だけを投与してしまうと、ビタミンB1がさらに消費されてしまうので、状況が悪化してしまいます。
精神科の現場でも、アルコール依存症の方を診療する機会がありますが、アルコール離脱せん妄といった精神症状だけではなく、ウェルニッケ脳症には十分注意が必要です。
ウェルニッケ脳症の死亡率は10〜20%といわれており、生存例の約80%は不可逆的な作話や健忘といった症状をきたすコルサコフ症候群を発症するといわれており、注意が必要な病気です。
なぜアルコール依存症では欠乏しやすいのか?
アルコール依存症でビタミンB1が欠乏しやすい理由には、いくつかあると考えられます。
慢性的なアルコール依存の方では、アルコールを多飲してしまい食事摂取がおろそかになったり、偏ってしまうことがあります。
1.食事の摂取の偏り
ほぼ、「酒だけを飲んでしまっている」という状態になり、ビタミンの摂取が減少してしまい、ウェルニッケ脳症の原因となることが考えられます。
2. 消化管での吸収障害や排泄の亢進
アルコールを飲むことで、消化管に影響を与え、ビタミンの吸収が低下してしまうといわれています。
また、お酒を飲むと下痢をしてしまったり、利尿作用によって尿に排出してしまったりと、飲酒によって栄養を吸収する能力が低下してしまいます。
せっかく摂取したビタミンを、十分に吸収できなくなってしまうことでビタミン欠乏が起こってしまいます。
3.アルコールの代謝にビタミンが消費される
アルコールは、体内でまずアセトアルデヒドという物質に代謝されますが、この際にビタミンB1が消費されます。アルコールによる吸収障害や食事からの摂取低下のみならず、お酒の分解にもビタミンが必要になってきます。
このような様々な原因から、アルコール依存症で慢性的にアルコールを多飲している方では、ビタミンB1欠乏になりやすいと考えられます。
コルサコフ症候群
コルサコフ症候群は、ウェルニッケ脳症の治療が遅れると後遺障害として発症してしまうことがある病気です。
「記銘力障害・作話・見当識障害」を特徴とする症候群で、不可逆的な状態のため、ビタミンB1を投与しても治らない状況になってしまいます。
その症状についてみていきましょう。
記銘力障害
記銘力障害は、新しく物事を記憶する能力が失われてしまうことです。コルサコフ症候群では、こうした記銘力障害により、日常でも物忘れが目立つようになります。
見当識障害
見当識障害とは、時間・場所・人といった状況認識が障害されて分からなくなってしまう状態です。
認知症でもよく見られますが、現在の日時や居場所が分からなくなったり、身の回りにいる人がどういう関係なのかわからなくなってしまったりという症状がみられます。
作話
文字通り、話を作ってしまうという症状です。実際に経験していないことを、あくまで本当のことのように話してしまうことがみられます。
コルサコフ症候群では記銘力低下や見当識障害がみられており、自分が思い出せないことについてじつまを合わせるために、無意識的に話を作り出しているのではないかと考えられています。
コルサコフ症候群に移行してしまうと、有効な治療の手立てはほとんどない状態になってしまうので、ウェルニッケ脳症の内に適切な治療をすることが最も重要になってきます。
おわりに
最後に、ウェルニッケ=コルサコフ症候群について、その特徴的な症状をまとめてみます。
まとめ
- ウェルニッケ脳症はビタミンB1不足により発症する
- 特徴的な三徴は眼球運動障害、意識障害、運動失調
- コルサコフ症候群はウェルニッケ脳症から移行し、不可逆的となる
- 特徴的な三徴は作話、見当識障害、記銘力障害
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント