【精神科医が解説】ジプレキサ(オランザピン)筋注の用量・用法は?どう使う?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、精神科領域でよく用いられる「ジプレキサ(オランザピン)筋注」について解説していきます。

この記事の内容

ジプレキサ(オランザピン)筋注について現役の精神科医が解説します!

当記事は、添付文書などの情報を参考にまとめたものです。出典を明記し、可能な限り正確な情報の提供に努めていますが、個人の編集のため、誤りを含む可能性があります。薬剤の使用にあたっては、必ず添付文書を参照の上で使用してください。

ジプレキサとは

ジプレキサ(一般名オランザピン)は、非定型抗精神病薬のうちの一つです。その中でも、MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)に分類されます。

神経伝達物質のドパミンやセロトニンなどの様々な受容体に作用し、幻覚、妄想など統合失調症の症状や、双極性障害などの症状を改善することが知られています。また抗ヒスタミン・抗α1受容体作用から、鎮静作用が強いことも特徴です。

その剤型には普通錠から細粒やOD・ザイディス錠など様々なものがありますが、内服だけではなく筋肉注射として用いる「オランザピン速効性筋注製剤」があります。

筋注用製剤があることで、内服ができない状態の興奮した患者さんなどに投与することができ、即効性も期待できます。こうした理由から、ジプレキサ筋注用が現場では用いられています。

この記事では、その用法や用量などについて、精神科医が解説していきます。

ジプレキサ筋注用について

概要

添付文書より抜粋した、ジプレキサの筋注用の概要です。

販売名欧文商標名製造会社YJコード薬価規制区分
ジプレキサ筋注用10mgZyprexa Rapid Acting Intra-Muscular Injection日本イーライリリー1179408E10201715円/瓶劇薬, 処方箋医薬品
出典:KEGGデータベース ジプレキサ筋注用添付文書より

筋注用には、10mgのみが用意されています。薬価は1715円/瓶となっており、内服の10mgの薬価と比較すると価格は高めです。

効能または効果

統合失調症における精神運動興奮

効能または効果に関連する注意

急激な精神運動興奮等で緊急を要する場合に用いること。

このように、ジプレキサ筋注用は、統合失調症による精神運動興奮をきたし、緊急を要する場合に使用する薬剤であることが明記されています。

用法及び用量

通常、成人にはオランザピンとして1回10mgを筋肉内注射する。効果不十分な場合には、1回10mgまでを追加投与できるが、前回の投与から2時間以上あけること。また、投与回数は、追加投与を含め1日2回までとすること。年齢、症状に応じて減量を考慮すること。

となっています。

内服との併用

ちなみに、すでにジプレキサを内服で使用している場合、上述の用法・用量はどのようにして考えれば良いのでしょうか。

実は内服・筋注に関しては、決まりきった合計の1日最大用量というものはありません。下記は日本イーライリリー社のHPから引用したものです。

オランザピンとして、筋注製剤及び経口剤を合わせた1日最大用量の規定はございません。筋注製剤と経口剤を併用する場合は、各剤形の添付文書で規定された用法・用量に従ってください。

オランザピン経口剤などの抗精神病薬を含む中枢神経抑制剤(バルビツール酸誘導体、経口ベンゾジアゼピン製剤等)とオランザピン筋注製剤の併用は併用注意となっています。併用する際には、本剤投与と適切な投与間隔をあける、減量するなど注意してください。

オランザピン経口剤20mgを服用している患者にオランザピン筋注10mgを投与する場合も、上述の併用注意にあたりますのでご注意ください。

ジプレキサ筋注用 (オランザピン速効性筋注製剤) 日本イーライリリー社

つまり、内服と併用を合わせた上限用量に関しては、規定はないと書かれていますが、併用には十分注意が必要です。もし、上記を鵜呑みにして最大限まで使うとすれば、内服の上限20mgと筋注の上限20mgということになるでしょうか。

個人的には、すでにジプレキサを上限まで飲んでいるような患者さんの場合、ジプレキサを30mg以上使うというよりかは、他の筋注用の薬剤に変えるなどの対応を取ることがあります。

添付文書上の警告

ジプレキサは、糖尿病患者などに使用すると血糖値の上昇による糖尿病性ケトアシドーシスをきたす報告があり、内服に関しては糖尿病患者には禁忌となっています。

しかし筋注用に関しては以下のように、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しないこと」という警告がありますが、禁忌の欄には糖尿病の記載がありません。

著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、投与前に血糖値の測定等を行い、糖尿病又はその既往のある患者あるいはその危険因子を有する患者には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外は投与しないこと。また、投与前に血糖値の測定等が困難な場合には、投与後に血糖値をモニタリングするなど観察を十分に行うこと。

出典:KEGGデータベース ジプレキサ筋注用添付文書

禁忌ではない理由

これはなぜでしょうか?結論としてはその剤型上の使用特性によるものだということです。

日本イーライリリー社のジプレキサ筋注用製剤の「適正使用ガイド」(医療関係者向け)によると、理由は以下のように書かれています。

ジプレキサ筋注は、緊急を要する場合に使用する薬剤であり、投与期間は短期間であるため、経口剤と比較して安全性上のリスクは小さいと考えられたこと、また「急激な精神運動興奮等で緊急を要する場合」に用いられるという臨床現場では、投与前に糖尿病を確認することは困難な場合が想定され、投与は基本的に緊急時の使用であるため、当該患者への投与は禁忌となっておりません。

ジプレキサ筋注用10mg(オランザピン速効性筋注製剤)適正使用ガイド, 日本イーライリリー社

このように、ジプレキサを使用する緊急性の高いシーンの特性や、短期間の使用であるリスクの小ささを考慮して、添付文書上は禁忌には指定はされていません。

いずれにせよ、糖尿病患者に使用した場合は血糖値上昇のリスクはあり、十分に注意をして使用することが必要です。

使用方法

ジプレキサ筋注用を初めて使う時、戸惑いがちなのがその投与方法です。

ジプレキサ筋注用のバイアルの中には、黄色の細粒が入っており、そのままでは筋注することはできず、注射用水で溶解する必要があります。添付文書(KEGGデータベース)では、以下のように投与方法が示されています。

  • 2.1mLの日局注射用水で溶解する。
  • 本剤溶解時、溶液は黄色澄明を呈する。
  • 溶解後、速やかに使用すること。
  • 溶解した残液は使用しないこと。

このように、緊急時の薬剤にしてはやや溶解液の量が中途半端です。日本イーライリリー社のホームページによると、「溶解した薬液の吸引時及び投与時の損失を考慮し、1バイアルから10mgを注射可能な量を確保するため過剰充填されています」と書かれています。

そのため、2.1mlという半端な量での溶解が指示されていると考えられます。

このようにして溶解した薬剤は、透明な黄色の液体になります。これを肩(三角筋)や臀部の筋肉(中臀筋)に注射し、投与します。

投与量の調整

年齢などを考慮して投与量を調整する場合についてです。添付文書には、「投与量を調整する場合は以下の用量を参考にすること」と書かれています。

用量(mg)投与量(mL)
10.0バイアル内溶解液全量
7.51.5
5.01.0
2.50.5
出典:KEGGデータベース ジプレキサ筋注用添付文書

ジプレキサの薬物動態

ジプレキサ筋注用の薬物動態、半減期などを見ていきましょう。

出典:KEGGデータベース ジプレキサ筋注用添付文書

薬物が最大血中濃度に達するまでの時間(Tmax)の平均値は0.28時間と、17分程度となっています。このように、血中濃度の立ち上がりが速いことが特徴だと言えます。

個人的な使用感では、だいたい30分以内には効果が出てくることが多いような印象を受けます。精神運動興奮が激しいような患者さんに対して使用する際、即効性があることは非常に優れた特徴であると言えます。

おわりに

ジプレキサ筋注について、解説してきました。

ジプレキサ筋注用は、抗精神病薬の中でも数少ない筋注可能な薬剤となっています。

その鎮静効果の高さや筋注製剤ならではの即効性の高さから、精神運動興奮を呈する患者さんに対して重宝されている薬剤です。

この記事では、その使用方法・注意点について解説しました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

当記事は、添付文書などの情報を参考にまとめたものです。出典を明記し、可能な限り正確な情報の提供に努めていますが、個人の編集のため、誤りを含む可能性があります。薬剤の使用にあたっては、必ず添付文書を参照の上で使用してください。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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