はじめに
こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。
今回は、精神保健福祉法に基づいた「退院支援委員会」というものについて解説していきます。
精神科医が「退院支援委員会」について解説します!
この記事は2024年3月18日現在の情報であり、令和6年4月以降の改正精神保健福祉法施行により変更点があります。
赤マーカーで追記した部分に注意してください。
退院支援委員会とは
退院支援委員会とは、精神保健福祉法に基づく医療保護入院をしている患者さんについて、設置・開催することが義務付けられているものです。
平成25年の精神保健福祉法の改正に基づいて、医療保護入院者の退院による地域における生活への移行を促進するための措置として定められました。
我が国では、精神科病院への入院の長期化が焦点となっており、地域中心の精神医療へのシフトのためにさまざまな対策が取られてきました。そのうちの一つが退院支援委員会という制度です。
厚生労働省の会議資料によると、退院支援委員会は、病院において医療保護入院の入院の必要性を審議し、退院期間を明確化し、地域への退院を促進するために設置されると記されています。
根拠となる条文
法律的な根拠についてみていきましょう。
精神保健福祉法
退院のための体制の整備については、以下の条文に定められています。
第三十三条の六 精神科病院の管理者は、前二条に規定する措置のほか、厚生労働省令で定めるところにより、必要に応じて地域援助事業者と連携を図りながら、医療保護入院者の退院による地域における生活への移行を促進するために必要な体制の整備その他の当該精神科病院における医療保護入院者の退院による地域における生活への移行を促進するための措置を講じなければならない。
施行規則
精神保健福祉法の施行規則には、以下のように定められています。
十五条の六 精神科病院の管理者は、入院期間が一年未満である医療保護入院者の第十三条の四第一号トに規定する推定される入院期間又は次項に規定する入院期間が経過するごとに、当該医療保護入院者の入院を継続する必要があるかどうかの審議を行うため、医療保護入院者退院支援委員会(以下「委員会」という。)を開催しなければならない。
このように、精神保健福祉法の条文に基づいて、具体的に退院支援委員会の開催について書かれています。
いつ開催するのか?
上の精神保健福祉法の条文では、退院支援委員会を行う対象となるのは、「推定される入院期間または次項に規定する入院期間」と書かれています。
詳しく法律に基づいて解説したいのですが、いちいち引用していると難解なので、ここでは日本精神保健福祉士協会が発表している「退院後生活支援相談員ガイドライン」というものから引用していきます。
在院期間が 1 年未満の医療保護入院者であり、入院時の入院診療計画書に記載した入院期間を経過するもの
在院期間 1 年未満であって、委員会の審議で設定された推定入院期間を経過するもの
在院期間が 1 年以上であって、管理者が委員会での審議が必要と認めるもの
入院から 1 年以上の医療保護入院者を委員会での審議対象としない場合は、具体的な理由(重度且つ慢性的症状を呈し、入院の継続が明らかに必要な病状であること等)を定期病状報告に記載する。具体的な理由がない場合には、原則として委員会での審議を行うことが望ましい。
→令和6年4月1日の改正精神保健福祉法施行により、定期病状報告は廃止され、また一年以上の入院者も原則入院期間更新のために退院支援委員会の開催が必要となります。
出典:精神保健福祉士のための退院後生活環境相談員ガイドライン, 日本精神保健士協会, 2016年
以上の通りになっています。
ちなみに、具体的な開催時期については、当該推定入院期間を経過する時期の前後概ね 2 週間以内となっていますが、その入院期間経過時から概ね 1 ヶ月以内の退院が決まっている場合(任意入院に変更して入院継続する場合を除く)は開催は不要とされています。
また、入院診療計画書に記載する入院期間については、原則1年未満とし、「●ヶ月」などと具体的に記入することが求められています。最初に「10年」と書いておけば開催しなくていい、といったものではありません。
また委員会の後、入院期間の延長が必要な場合は「●ヶ月」と入院期間を定めて審議記録に記載しますが、ここに書けるのは特段の理由がない限りは最長で「11ヶ月」となっています。
→令和6年4月以降は医療保護入院は法定期間が定められ、それを超える場合は更新が必要となります。
退院後生活環境相談員の役割
この開催の日程調整を主導的に進めるのが、「退院後生活環境相談員」といって、同じく精神保健福祉法で定められ、選任されるポジションです。
具体的な役割についてはこちらの別記事も参照してみてください。
【精神科医が解説】退院後生活環境相談員とは?誰がなれる?何する人?
参加者は?
委員会の参加者としては、主治医や、退院後生活環境相談員、看護職員、そのほかに場合に応じて本人や家族等が参加することになります。
1 主治医(主治医が精神保健指定医でない場合は、主治医に加えて指定医も出席)
→令和6年4月1日から指定医の出席は不要になります
2 看護職員(担当する看護職員の出席が望ましい)
3 選任された退院後生活環境相談員
4 1~3 以外の病院の管理者が出席を求める当該病院職員
5 当該医療保護入院者本人(本人が出席を希望した場合)
6 入院者の家族等(本人が出席を求め、出席を求められたものが出席要請に応じるとき)
7 地域援助事業者その他の当該精神障害者の退院後の生活に関わる者(6 と同様)
開催方法と審議内容
具体的な開催の方法については、当該病院における医療保護入院者数等の実情に応じた開催方法で良いと記載されています。
また内容としては、以下の3点を中心に話し合います。
1. 医療保護入院者の入院継続の必要性の有無とその理由
2. 入院継続が必要な場合の委員会開催時点からの推定される入院期間
3. 2の推定される入院期間における退院に向けた取組
審議の結果
審議の結果は、速やかに本人や家族などに通知するように求められます。もし入院の必要性がないと判断された場合は、速やかに退院に向けて手続きを進めていくことになります。
また退院支援委員会の審議記録を作成し、定期病状報告の際に直近の審議時のものを添付する必要があります。
おわりに
精神科医療の地域へのシフトのために定められた、「退院支援委員会」について解説しました。
退院支援委員会を行うためには、多職種や家族の日程を調整し、時間を設けなければなりません。開催するのは正直いって手間がかかります。
中には形式的なものと捉える方もいますが、この手間がかかるところがミソなのではないかと思っています。
漫然と長期入院を許容するのではなく、退院できる患者さんは積極的に地域に帰す、という心掛けに繋がるからです。
- 退院支援委員会は、精神科医療の地域へのシフトのために法律に定められた。
- 退院を支援するために、入院の必要性や退院への取り組みを話し合う。
- 退院後生活支援相談員が開催の調整に中心的な役割を担う!。
参考資料
精神保健福祉士のための退院後生活環境相談員ガイドライン, 日本精神保健士協会, 2016年
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