【精神科医が解説】退院後生活環境相談員とは?誰がなれる?何する人?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、精神保健福祉法で定められた、「退院後生活環境相談員」という職務について解説していきます。

退院後生活環境相談員とは

平成26年の精神保健福祉法の改正によって、精神科の医療保護入院において、「退院後生活環境相談員」というものを置くことが義務付けられました。

(医療保護入院者の退院による地域における生活への移行を促進するための措置)

第三十三条の四 医療保護入院者を入院させている精神科病院の管理者は、精神保健福祉士その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、退院後生活環境相談員を選任し、その者に医療保護入院者の退院後の生活環境に関し、医療保護入院者及びその家族等からの相談に応じさせ、及びこれらの者を指導させなければならない。

これはどういう役割の人かというと、「医療保護入院中の患者さんの退院後の生活環境について、患者さんや家族の相談に応じたり、指導する」と書いています。

つまり、医療保護入院者の退院環境を整え、退院を支援するようなポジションということです。

なぜ必要なのか

どうしてこうした役割の担当者が必要になったのか。それは、我が国における精神医療を「病院から地域へシフトさせる」という狙いにあります。

精神科医療の歴史の中で、欧米諸国では、精神科病院に収容する政策から、地域生活に移行させる政策がとられ、精神病院中心の精神医療からの脱却が図られてきました。

しかしわが国では、これまで精神科病院中心の医療が行われてきました。精神病床数も統計上、世界一といわれています。(精神病床の統計上の定義は各国で異なり、一概に比較することはできませんが)

 他国が行ってきた地域医療へのシフトは、経済的な側面から行われた歴史的背景もあり、必ずしもメリットばかりではありません。地域以降に失敗したケースもあります。しかし、わが国でも、精神病院中心体制からの脱却という時代の潮流は無視できず、病院からの退院支援が重視されるようになったのです。

そのための1つのキーとして、こうした相談員を置くことが義務付けられたという歴史的な流れがあります。

誰がなれるのか

法律の条文では、相談員は、「精神保健福祉士その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから」選任すると書いてあります。

厚生労働省の定める資格要件には、以下のように書かれています。

退院後生活環境相談員になれる人
  • ①精神保健福祉士 
  • ②看護職員(保健師を含む)、作業療法士、社会福祉士として、精神障害者に関する業務の経験者
  • ③3年以上精神障害者及びその家族等との退院後の生活環境についての相談及び指導に関する業務に従事した経験を有する者であって、かつ、厚生労働大臣が定める研修を修了した者

令和6年4月からは、精神保健福祉法の改正に伴い公認心理士も追加されます。

大体の場合、その病院の精神保健福祉士(PSW)さんや、看護師さんなどがなることが多いでしょうか。

ちなみに、専任や配置については、医療保護入院者1人につき、1人の退院後生活環境相談員を入院後7日以内に選任しなければならないと書かれています。

何をする?どんな役割?

基本的な業務

さて、この退院後生活環境相談員は、どんな業務をすることが期待されているのでしょうか。厚生労働省の資料にはこのように書かれています。

(1)個々の医療保護入院者の退院支援のための取組において中心的役割を果たす。
(2)医師の指導を受けつつ、多職種連携のための調整や行政機関を含む院外の機関との調整に努める。

要するに、退院支援のリーダーシップをとり、対外的にも円滑に連携を取りなさいということです。

より具体的には、家族や本人とも退院に向けての相談に乗るほか、また地域の援助事業者(障害福祉・介護サービスなど)とも連携をして退院への環境調整をするように期待されています。

退院支援委員会

退院後生活環境相談員のもう一つの業務として、医療保護入院者退院支援委員会開催の中心的役割を担うという重要な業務があります。

これは「退院支援委員会」と呼ばれるもので、入院後一年未満の医療保護入院者などを対象として、退院を支援するために定期的に開催が義務付けられているものです。

生活支援相談員は、この退院支援委員会の開催を中心的に進める役割を担っています。

この会議は、主治医や精神保健指定医、その他場合に応じて患者・家族など、出席者の都合を合わせて開催する必要があり、正直言って手間がかかるものです。

このような会を設けることで、漫然と入院を続けるのではなく、退院に向けて多職種で相談するきっかけになり、早期に退院を目指す機運が高まるといえます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

わが国では精神科病院への長期入院に依存した医療体制から、地域での生活に向けたシフトが進められています。

そのなかで重要な役割を担うのが、精神保健福祉法によって定められた「退院後生活環境相談員」というポジションです。

まとめ

わが国では、精神病院依存から地域医療へのシフトに向けたシフトが進められている
退院後生活環境相談員は、医療保護入院者の退院支援のために法律によって設置が義務付けられた
退院に向けて多岐にわたる調整や、委員会の開催などの役割を担う!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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