【精神科医が解説】医療保護入院の同意者になれる人は?法律に基づいて解説します

目次

はじめに

こんにちは、精神科医ブロガーのやっくん(mirai_mental)です。

この記事では、日本の精神科病院への入院制度である「医療保護入院」について解説します。

様々な職種の国家試験などでも頻出の「医療保護入院」ですが、その同意者になれる人が誰なのかを解説していきます。

この記事について

精神科医が医療保護入院の同意者について解説していきます。

医療保護入院とは

「医療保護入院」とは、日本の精神保健に関する法律「精神保健福祉法」に基づいた入院制度のことです。

精神障害のために入院が必要であるけれども、本人が入院の必要性を理解して同意ができない場合に、家族や市町村長などの同意の上で、精神保健指定医と呼ばれる資格を持った医師の診察の上で成立する入院形態です。

第33条 精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。
一 指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第20条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの
二 第34条第1項の規定により移送された者

出典:精神保健福祉法 (令和5年4月1日施行)

法律の文面にあるように、本人が同意できないときは、「家族等」の同意者が同意をすることで入院が行われます。

対象となる家族等の範囲

その「家族等」とは、誰が相当するのでしょうか。 再び法律の文面を照らして、考えてみましょう。

第五条

この法律で「家族等」とは、精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者を除く。
一 行方の知れない者
二 当該精神障害者に対して訴訟をしている者又はした者並びにその配偶者及び直系血族
三 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
四 当該精神障害者に対して配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に規定する身体に対する暴力等を行つた配偶者その他の当該精神障害者の入院及び処遇についての意思表示を求めることが適切でない者として厚生労働省令で定めるもの
五 心身の故障により当該精神障害者の入院及び処遇についての意思表示を適切に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
六 未成年者

出典:精神保健福祉法 (令和5年4月1日施行)一部省略改変

ここで大事なのは、この一文です。

「家族等」とは、精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう。

配偶者や親権者、後見人保佐人はわかりやすいですが、扶養義務者とはどのことなのでしょうか。

民法第877条第1項では、扶養義務者とは「父母、祖父母、 曽祖父母、兄弟姉妹、子、孫、曽孫のことで、かつ受給資格者世帯と生計をともに維持する者

として定義されています。図で示すと、以下のようになります。

出典:藤岡市ホームページ

現場では、配偶者、兄弟姉妹、父母、子などが多いですが、理論上は、曽祖父母や曽孫なども扶養義務者に入ることがわかります。叔父や叔母などは、原則この対象にはなりません。

ただし、ここで注意点があります。

例外として、3親等内の親族(おじ・おば等)が扶養義務を負うことになるケースがあります。これはもともと扶養義務を負う直系血族と兄弟姉妹、配偶者に経済力がないような特別な事情の時のみです。

この場合、家庭裁判所が審判によって3親等内の親族を扶養義務者に指定することがあります。

第877条2項 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

出典:民法

つまり、医療保護入院の同意者になるのは、

「家族等」の範囲

扶養義務者となる直系血族と兄弟姉妹、配偶者(父母、祖父母、 曽祖父母、兄弟姉妹、子、孫、曽孫)
家庭裁判所で指定を受けた三親等内の親族(おじ・おば等)

であるといえます。ちなみに、精神科医をやっていると「内縁の妻・夫」(籍を入れていない事実上のパートナー)といった人物がよく登場しますが、この場合も法律上の配偶者以外は同意の対象になりませんので注意してください。

家族等が虐待している場合について

令和5年4月1日からは改正された精神保健福祉法の施行により、さらに注意点が加わりました。

医療保護入院の際に同意が必要な「家族等」から、虐待を行った者が除かれます。また医療機関は、虐待を行った者以外の家族等に、医療保護入院の同意を求める必要があります。

虐待が疑われる場合は、虐待については各種の法律に基づいて虐待の届け出を行うことになります。

もし、虐待を行った家族のほかに同意を求めることができない場合には、33条2項に基づく入院制度により市町村の入院の同意を求めることができます。

33条2項 市町村長の同意について

医療保護入院を要する者の中には、身寄りがなかったり、家族が虐待をしているなどの理由でどうしても家族等の同意を得られない場合があります。その場合は、市町村長の同意を求めることができます。

精神保健福祉法33条

2 精神科病院の管理者は、前項第一号に掲げる者について、その家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合において、その者の居住地を管轄する市町村長の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。第三十四条第二項の規定により移送された者について、その者の居住地を管轄する市町村長の同意があるときも、同様とする。

出典:精神保健福祉法 

これがいわゆる「市町村長同意」というものです。この条件には、その家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合と書いてあります。

「その意思を表示することができない場合」とは何でしょうか。

これは「同意をしてくれない」という場合ではなくて、「決められない」「意思を表示できない」という場合など、意思表示ができない場合においてのみです。家族が同意を拒否しているからといって、市町村長の同意を求めることはできませんので注意してください。

医療保護入院の入院届をみてみる

もし誰が同意者として適格なのか、わからなくなってしまった場合は、「医療保護入院の入院届」をみてみると良いでしょう。

この入院届には、誰が同意者となったのか選択する項目があります。

ここに存在しない立場の人は、同意者にはなり得ないということになりますから、誰が同意者になりうるかという問いへの答えになります。(上述したように市町村長など、特別な場合にしか同意者となれない場合もあります)

まとめ

最後に、内容を簡単にまとめてみます。

まとめ(同意者要件)
  • 扶養義務者となる直系血族と兄弟姉妹、配偶者(父母、祖父母、 曽祖父母、兄弟姉妹、子、孫、曽孫) もしくは家庭裁判所で指定を受けた三親等内の親族(おじ・おば等)
  • 「家族等」のうち本人に虐待を行った者は同意の対象者から除外される
  • 「内縁の夫・妻」は同意はできない!
  • 家族等がいない、もしくは家族が意思を表示できない・虐待等により同意できる家族がいない場合、市町村長同意(33-2項)がある

いかがでしたでしょうか。医療保護入院の同意者については、基本的には直系血族の同意が得られればいいのですが、いろいろなケースがあることがわかります。

お読みいただきありがとうございました。

おまけ

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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