【精神科医が解説】睡眠薬の種類・半減期について解説!使い分けや副作用について説明します

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、「睡眠薬の作用時間・半減期」について解説していきます。

この記事の内容

各種の睡眠薬の半減期や作用の長さについて比較しながら解説していきます。

睡眠薬の種類

よく外来診療をしていると、「睡眠導入剤をください」と言われることがあります。

これは睡眠薬のことですが、睡眠薬にも多種多様あり、その効き目の長さも種類によって様々です。

薬の効果の長さは、主に「半減期」といって薬が投与されてから半分になるまでの時間を使って分類します。

その分類には以下の4つがあります。

睡眠薬の作用時間

  • 超短時間型
  • 短時間型
  • 中間作用型
  • 長時間型

それぞれの違いや、メリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。

超短時間型

超短時間型では、睡眠薬の中で最も効果が短いもので、速やかに効いて効果が短い分、入眠障害に用いるほか、中途覚醒などにも用いることができます。

効果が短いので、翌朝まで持ち越しにくいこともメリットですが、離脱症状や反跳性不眠(薬をやめると逆に不眠が強くなる)が起こりやすい薬です。

超短時間型の例

トリアゾラム(ハルシオン)、※ゾルピデム(マイスリー)、※エスゾピクロン(ルネスタ)など

(※は非ベンゾジアゼピン系)

短時間型

短時間型では、主に入眠障害などに用いますが、持ち越しも少ないことがメリットです。ただやはり作用時間の短く強烈な薬剤は、依存性・離脱症状に注意が必要です。

デパスはその悪名高い例で、

短時間型の例

ブロチゾラム(レンドルミン)・エチゾラム(デパス)・ロルメタゼパム(ロラメット)など

中間型

中間型では、半減期は半日〜1日ほどのもので、中途覚醒早朝覚醒に用いることが多いです。その代わり、持ち越してしまうこともあります。

中間型の例

エスタゾラム(ユーロジン)・ニトラゼパム(ベンザリン)など

長時間型

長時間型は、24時間以上の長い半減期を持ち、日中にも血中の濃度が保たれるような薬になります。じんわりと効くため、中途覚醒や早朝覚醒、そのほかに日中の不安の改善などにも効果が期待できたりします。

長時間型の例

クアゼパム(ドラール)・フルラゼパム(ダルメート)など

このように、睡眠薬には作用時間別に不眠の症状に合わせて使い分けることが一般的です。

種類別の半減期と用量

よく用いられるベンゾジアゼピン・非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の半減期や用量を表にしてまとめてみました。

耳展 53:3;202~204,2010より作成 ※は確立されたデータなし

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用

これまでは、主にベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬や、それに似た作用を示す非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(マイスリー・アモバンなどの睡眠薬)を紹介してきました。

しかしこれらベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系には、いろいろな副作用があることが問題となっています。

持ち越し

睡眠薬の中には、半減期が長い薬剤や、投与量が多い場合などに、翌朝になっても作用が持続してしまうことがあります。これを持ち越しといいます。

そのため、朝になっても眠気やふらつきが残り、日中の活動に支障をきたす危険性があります。

記憶障害

ベンゾジアゼピン系の使用により、服薬してから中途覚醒時、翌朝起きてからの出来事を思い出せないといった、前向性健忘が生じることがあります。

時には車の運転や買い物といった複雑な行動ができてしまうことがあり、「記憶がないのに車を運転していた」といったこともあり得ます。

特に超短時間型の薬剤などで起こりやすいほか、アルコールとの併用によっても引き起こされることがあります。そのため、睡眠薬とアルコールの併用は避ける必要があります。

また高齢者などでは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は夜間せん妄のリスクを高めるといわれており、注意が必要です。

筋弛緩作用

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、睡眠作用のほかに強い筋弛緩作用を持つものがあります。こうした副作用のため、「夜中にトイレに起きたときに転倒してしまう」といったことがあり得ます。

特に高齢者の方は、薬の代謝がうまくいかず、体内に薬物が蓄積し、筋弛緩作用によって転倒しけがをしてしまうといったリスクも高まります。

若い人にとっては「たかが転ぶくらい」と思うかもしれませんが、骨密度が低下した高齢者の方は容易に大腿骨骨折などの重傷を負い、そのまま寝たきりとなって死の転帰をたどることもあり、怖い副作用なのです。

また呼吸筋に作用することで、呼吸抑制が起こるというデメリットもあります。

睡眠時無呼吸患者では、中途覚醒や熟眠障害が起こることがありますが、このような方に安易にベンゾジアゼピン系を投与してしまうと、症状を悪化させる可能性もあり注意が必要です。

常用量依存・離脱症状・耐性

ベンゾジアゼピン系睡眠薬では、通常の用量を守って内服していても身体・心理的に依存を形成してしまうことがあります。これを常用量依存といいます。

そのためこうした薬剤を中断しようとすると、様々な離脱症状が出現し、薬を始める前よりも強い不眠が出現することもあります。(反跳性不眠)

特に半減期が短く、力価が高い薬剤は、こうした離脱症状・退薬症状が生じやすく、特に長期間(数カ月以上)使用すると依存が形成されやすいといわれています。

また内服しているうちに、睡眠薬の効果が出にくくなることもあります。これを耐性と呼びますが、これによってどんどん睡眠薬の量が増えてしまうと問題になります。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Zドラッグ)の副作用

「マイスリー」「ルネスタ」といったいわゆる非ベンゾジアゼピン系の超短時間型睡眠薬は、その一般名にZが付くことから「Zドラッグ」と呼ばれています。

これらは催眠作用にかかわる受容体に選択的に作用するといわれ、筋弛緩作用などは従来のベンゾジアゼピン系と比べて少ないというマーケティングがなされてきました。

しかし、依存形成などのリスクを含めて、基本的にはベンゾジアゼピン系と同様の作用を持つ薬剤であり、非ベンゾ(Zドラッグ)であるから安全という認識は必ずしも正しいものではありません。

オレキシン系・メラトニン系睡眠薬

これまで紹介したベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系に加えて、最近では作用機序の異なり、安全性が高いといわれる睡眠薬が登場してきました。

これまでのベンゾジアゼピン系の薬剤は、どちらかというと脳の機能を低下させてシャットダウンさせるような働き方をするものでしたが、新しい睡眠薬は「自然に近い眠りもたらす」という効き方をする薬剤になります。

メラトニン受容体作動薬

夜になると眠くなるという現象には、脳の松果体という部位で分泌される「メラトニン」というホルモンが関係しています。

このメラトニン受容体に作用することで、自然な眠気を引き起こし、体内時計を調整する薬が、メラトニン受容体作動薬の「ラメルテオン」という薬です。

「ラメルテオン(ロゼレム)」は、「不眠症における入眠困難の改善」に適応があり、せん妄の予防にも効果があることが研究で分かってきています。また夜勤者などに多い概日リズム障害などにも効果が期待できます。

また、ベンゾジアゼピン系薬のように、退薬症状や反跳性不眠もみられないことから、安全性が比較的高いといえます。ただ、ベンゾ系のような切れ味が鋭い催眠作用というよりかは、比較的マイルドにリズムを調整してくれる薬というイメージです。

ちなみに、「メラトベル」というメラトニン受容体作動薬も発売されていますが、これはロゼレムとは異なり、「メラトニンそのもの」になります。「メラトベル」は一般名「メラトニン」で、小児期の神経発達症に伴う入眠困難にのみ適応があります。

オレキシン受容体拮抗薬

ロゼレムと並び、睡眠と覚醒の自然な調節のメカニズムにはたらく薬剤が、「オレキシン受容体拮抗薬」という薬です。これは現在用いられている睡眠薬の中でももっとも新しいタイプ薬剤といえます。

「オレキシン」という物質は、覚醒の維持に関与しているといわれており、このオレキシンの受容体をブロックしてしまうことで睡眠作用をもたらすというお薬です。

現在用いられている薬としては、「スボレキサント(ベルソムラ)」「レンボレキサント(デエビゴ)」といったお薬があります。

これらのお薬は、依存性や筋弛緩作用の心配がいらず、ベルソムラではせん妄の予防に効果があることもわかってきています。

デメリットとしては、悪夢などを見ることがあるほか、翌朝への持ち越し効果などが起こることもありますが、上述した安全性の高さから、現場では広く用いられるようになっています。

おわりに

最後までお読みいただきありがとうございました。

睡眠薬は種類によって作用時間や特徴が異なり、不眠の症状によって使い分けることが必要です。

それぞれのメリットやデメリットを理解した上で、正しく睡眠薬をお役立ててください。

まとめ

  • 睡眠薬には多くの種類があり、作用時間や作用の仕組みで分類される!
  • ベンゾジアゼピン系やZドラッグでは、依存性やふらつきなどの副作用が問題になることがある。
  • 異なる作用機序の睡眠薬が登場しており、ベンゾジアゼピン系に代わって用いられることが増えている

参考文献

1)睡眠薬の特徴と注意点, 耳展 53:3;202~204,2010

2)本当にわかる精神科の薬はじめの一歩改訂第3版, 稲田 健, 羊土社,2018

3)Hatta K, Kishi Y, Wada K, et al. Preventive effects of ramelteon on delirium: a randomized placebo-controlled trial. JAMA Psychiatry. 2014;71(4):397-403.

4)Xu, Shu et al. “Suvorexant for the prevention of delirium: A meta-analysis.” Medicine vol. 99,30 (2020)

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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