【精神科医が解説】向精神薬と精神安定剤、抗精神病薬の違いは?

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、「向精神薬と精神安定剤、抗精神病薬の違い」について解説していきます。

この記事の内容

「向精神薬と精神安定剤、抗精神病薬の違い」について解説します!

精神科のくすりをめぐる用語

精神科では、いろいろなタイプの薬が使われています。

「向精神薬」「抗精神病薬」「安定剤」など、いろいろな言い方が存在していて、専門用語と巷で使われている言葉がごっちゃになって、混乱することが多々あります。

医師の世界でも、精神科以外の科の医師から「抗精神薬が処方されている患者さんです」と言われ、「向精神薬」なのか「抗精神病薬」なのかごっちゃになっているのかなと思うこともあります。

そのくらい、いろいろな言葉が存在しているわけです。

精神科で使う薬について

向精神薬とは

まず、大事なのは「向精神薬」という言い方です。

これは、中枢神経に作用し精神機能に影響を及ぼす薬物の総称のことです。

つまり、抗うつ薬でも、抗不安薬でも、抗精神病薬でも、脳に働くことで、精神に影響を及ぼす薬をざっくりと呼ぶ言い方です。

「安定剤」も、「抗精神病薬」も、すべてこの分類の中に入ると考えていいでしょう。

その中で、主な薬について分類していきます。

向精神薬の分類

ざっと分類すると、以下のようなものがあります。

抗精神病薬統合失調症、妄想性障害などの治療に使われる薬
抗うつ薬うつ病や不安障害などに使われる薬
抗不安薬不安障害などに使われる薬
気分安定薬双極性障害などに使われる薬
抗認知症薬認知症に対して使われる薬
精神刺激薬ADHDの治療などに使われる薬
睡眠薬睡眠を助ける薬

抗精神病薬とは

抗精神病薬は、読んで字のごとく「精神病」に使うお薬で、幻覚妄想がみられる統合失調症のような、「精神病」状態に使う薬になります。

精神科の病気は精神の病気なのですから、「精神病」というのも非常にナンセンスな言葉なのですが、精神科の現場では昔の分類でいう「神経症」と区別して、統合失調症でみられる幻覚や妄想などの症状のことを「精神病(サイコーシス)」として使うことが多いです。

「向精神薬」と「抗精神病薬」は、とても言葉が似ているので、ごっちゃになりますが、抗精神病薬はあくまで向精神薬のなかの一つということです。

精神安定剤とは?

では、「精神安定剤」というのはどこに分類されるのでしょうか。上の表には登場していませんね。

「精神安定剤」は、比較的昔からある言葉なのですが、英語では「tranquilizer(トランキライザー)」と呼ばれ、精神安定剤、鎮静薬、鎮静剤などと訳されてきました。(tranquil(穏やかに)+izer(するもの)という意味)

この精神安定剤という言葉は、基本的に上の分類にするならば、精神安定剤≒抗不安薬として使われることが多いです。

なぜ「セミイコール」にしたかというと、現代的な呼び方では「イコール」で結ぶのは厳密には正確でないと考えるからです。

メジャーとマイナートランキライザー

実は精神科の薬の中には、かつてトランキライザーと呼ばれた薬が2種類あります。それは、「メジャートランキライザー」と「マイナートランキライザー」です。

「メジャー」の方は、今でいう抗精神病薬のこと。「マイナー」の方は、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬などのことを指します。

当初「トランキライザー」は1種類しかありませんでしたが、なぜ2種類になったかというと、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が1960年ごろから登場したことによります。(デパス®・サイレース®といった類のお薬です)

一番最初に「トランキライザー」が登場した当初は、ざっくりと抗精神病薬やその他の鎮静系の薬のことを指していました。

しかしベンゾジアゼピン系抗不安薬の登場により、元々あった抗精神病薬などの「トランキライザー」と区別して、次第に抗不安薬が「マイナートランキライザー」と呼ばれ、前者が「メジャー」と呼ばれるようになったのです。

「メジャー」だから効果が大きく、「マイナー」だから効果が弱いというわけではなく、両者の作用のメカニズムも適応も異なるものです。

しかし、薬の歴史の中で、両者の区別をするためにこのように呼ばれてきたというわけです。

マイナートランキライザー=安定剤?

そもそも安定剤という言葉も、トランキライザーという言葉も非常にざっくりした言葉なので、厳密に決めつけることはできないのですが、今の日本では、先ほどのベンゾジアゼピン系などの抗不安薬が「安定剤」と呼ばれることが多いです。

しかし、「メジャー」に抗不安作用や精神を安定させる作用がないわけではなくそのような効果を持った薬剤もたくさんあります

つまり、厳密にいえば抗精神病薬もベンゾジアゼピン系の抗不安薬も、どちらも精神を安定させる薬であることには間違いはなく、片方だけを「精神安定剤」と呼ぶのもどうかと思ってしまいます。

ただあくまでも、現代では「安定剤」という言葉が、抗不安薬とほぼ同義で使われているのだと理解しておけばいいでしょう。

まとめ

精神科で使ういろいろなお薬とその定義について、解説していきました。

こうしたお薬についての呼び方は、精神科の薬が次々に登場する歴史の中で、様々に変化してきました。

精神科の現場では、医療者が「精神安定剤」という言葉を自ら使うことはありませんが、患者さんからそうした言葉を聞くことは多いです。

また「メジャートランキライザー」といった言葉も、現代の分類には厳密にはそぐわない用語ではありますが、現場では今でも「この人にはメジャー(抗精神病薬)を使ったほうがよさそうだ」などといった使われ方をすることが多いです。

言葉というのはその時代によって、その都度使われ方が変わってくるものだと思います。

まとめ

  • 「向精神薬」は精神科の薬を総称する呼び方!
  • 「抗精神病薬」は統合失調症などに使う精神病の薬のことを言う。
  • 「安定剤」は今の分類では「抗不安薬」に準じた意味で使われることが多いが、医療者が使うことはほとんどない

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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