【精神科医が解説】セリンクロの処方に求められる条件について!研修も実際に受けてみた。

目次

はじめに

こんにちは。精神科医として心の健康に関する情報を発信している、精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、「セリンクロの保険診療における処方に必要な条件」について解説していきます。

この記事の内容

保険診療上でセリンクロの処方に必要な条件について精神科医がまとめてみました。

セリンクロとは

セリンクロ(一般名:ナルメフェン塩酸塩水和物)は「アルコール依存症患者における飲酒量の低減」に保険適応のある薬剤になります。

これまで、アルコール依存症に対する薬剤はいくつかありましたが、それらは断酒治療を前提とした薬剤でした。

これまでアルコール依存症の治療は「断酒」が基本でした。しかし近年では、減酒をすることで、飲酒による害を減らすことも当面の目標になり得るという考えが、欧米を中心に広がってきました。

セリンクロは、こうした「減酒」を治療目標としている方に使用することが出来るという点で、他の薬剤とは一線を画しています。

効能または効果に関連する注意

セリンクロの添付文書には、効能及び効果に関連する注意として、以下のように書かれています。(要点)

・アルコール依存症の治療目標は、原則、断酒の達成とその継続である。断酒ではなく飲酒量低減を治療目標とすることが適切と判断された患者に対して本剤を投与すること。

・アルコール依存症治療の主体は心理社会的治療であることから、服薬遵守及び飲酒量の低減を目的とした心理社会的治療と併用すること。

上で述べたように、アルコール依存症の治療で、減酒によるハームリダクションは重要な概念になってきています。そして、減酒はあくまでも中間ステップ・治療目標の一つであり、最終目標は、断酒をすることです。

しかし、すでに重篤な問題が生じているアルコール依存症患者や、重い身体合併症が出現している場合など、はなから減酒より断酒を目標とすべき患者さんもいます

この注意事項には、セリンクロは、あくまで飲酒量の低減(減酒)を目標とする患者に対して投与すべきだということが書いてあります。(断酒すべき患者や、その場合どういう薬物を用いるのかについては以下を参照)

新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き【第1版】

またアルコール依存症の治療には、薬物療法だけではなく心理社会的治療が重要となってきます。ただ薬を飲むだけでは治療が不十分な可能性があるということです。

セリンクロの処方条件

減酒を目指す患者さんにとって頼もしい見方となるセリンクロですが、発売開始とともに厚労省などから留意事項が発表されました。

その内容としては、保険診療の中で用いるためには、アルコール依存症に係る適切な研修を修了した医師等による治療計画の下で、心理社会的治療を行うことが求められています。(以下、関連資料より抜粋)

本製剤の薬剤料については、以下のすべての要件を満たした場合に限り算定できる
(ア)アルコール依存症患者に対して、アルコール依存症に係る適切な研修を修了した医師が、アルコール依存症に係る適切な研修を修了した看護師、精神保健福祉士、公認心理師等と協力し、家族等と協議の上、詳細な診療計画を作成し、患者に対し説明する
(イ)必要に応じて患者の受け入れが可能な精神科以外の診療科を有する医療体制との連携体制がある
(ウ)心理社会的治療は、アルコール依存症に係る適切な研修を修了した医師によって行い、その要点・診療時間を診療録に記載する。なお、少なくとも本剤の初回投与時には「30分を超えて当該治療を行う」こと(初回投与までの診療時に30分を超えて当該治療を行った場合を除く)
(エ)(ア)・(ウ)に定める「アルコール依存症に係る適切な研修」は、A231-3【重度アルコール依存症入院医療管理加算】の算定にあたり「医師等に求められる研修」に準じたものであること

つまり、肝要なところを抜き出すと、

・研修を修了した医師が、同じく研修を修了した他職種や家族と共に治療計画を立て、患者に説明する

・精神科以外のある医療機関と連携体制がある

・初回投与時までに30分以上の心理社会的治療を行い、カルテに記載する

といったところでしょうか。

「医師等に求められる研修」が何かということなのですが、現在では日本アルコール・アディクション医学会などが作成した約3時間の「アルコール依存症の診断と治療に関するeラーニング」を受講することで、この条件を満たすことが出来ます。

自分も受けてみました

「アルコール依存症の診断と治療に関するeラーニング」について、早速自分でも受けてみました。

アルコール依存症の診断と治療に関するeラーニング研修 (gakken-meds.jp)

申し込みは簡単で、インターネットですぐに申し込み、受講することができます。

因みに2023年12月現在、受講料は医師向け5,000円、メディカルスタッフ向け1,000円となっていました。

約3時間で受講を終えることができ、内容も基本がまとまっていて、非常にわかりやすかったです。またセッションごとのテストも何度も受け直すことができるので、間違えた個所の確認や復習も容易でした。また受講後は、すぐに研修の修了証をダウンロードすることができました。

まとめ

セリンクロはアルコール依存症の減酒治療に用いる薬剤である。
患者さんに減酒治療の適応があるかどうかなど、用いる場面には注意が必要。
保険診療で用いるためには所定の研修を受ける、心理社会的治療と併用するなどの条件がある。
研修はeラーニングで比較的お手軽に受けられる!

参考文献・Webサイト

薬価(薬価基準)の一部改正等について (平成31年2月25日) (保医発0225第9号)

国内初のアルコール依存症における飲酒量低減薬「セリンクロ錠10㎎」新発売-大塚製薬


アルコール・薬物使用障害の 診断治療ガイドライン-厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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