【精神科医が解説】精神科に行ったら薬漬けにされる?誤解と現状を解き明かします

目次

はじめに

こんにちは。精神科医ブロガーのやっくん(@mirai_mental)です。

今回は、精神科のおくすりに関する疑問について、お話ししたいと思います。

精神科の薬を飲んだら、終わりだ」「精神科に行ったら薬漬けにされる」

そういう噂を聞いたことがある方は、少なくないと思います。

果たしてそれは事実なのでしょうか?誤解なのでしょうか。

精神科医療の現場で働く医師が、そうしたステレオタイプについて客観的な立場で解き明かしたいと思います。

精神科における薬物療法

まず第一に、精神科の治療において、「おくすり」は重要な武器の一つです。

うつ病や統合失調症など、多くの精神科疾患において、科学的に効果が認められた薬剤が存在しています。

そして実際に治療薬として、適応が通っているおくすりは、基本的には科学的に効果が証明され、効能が認められたおくすりです。

十分な根拠がないおくすりには、国もお金を出しませんよね。

もちろん、精神疾患の治療には精神療法やカウンセリングなど、非薬物療法的なアプローチが重要となることもあります。

また、精神科の病気の中には保険で認められるような十分な根拠がある薬剤がないものもあります。(パーソナリティ障害や摂食障害など)

つまり、精神科の治療においては薬物療法は全てではないのですが、精神科医にとって重要な武器であることは間違いありません。

薬漬けになるのは本当?

精神科の治療で重要になる薬物療法ですが、中には「薬漬けにされてしまうのか」「一生飲み続けるのか」「金のためにたくさん薬を出される」と不安になる方もいると思います。

これは、一部事実で、一部は誤解だと考えています。

その理由について詳しく説明します。

基本的に医師は「多剤」は避けたい

私は精神科医として働いていますが、基本的に、お薬をたくさん出すことは避けたいと考えています。

それは、こうした理由からです。

服薬の手間がかかる

まず、お薬をたくさん出すことで、患者さんがお薬を飲む回数や錠数が増えてしまいます。

そうすることで、お薬を飲むことを負担に感じてしまう可能性が出てきます。

精神科の治療では、症状が安定するまでは服薬を続けることが大事になってきます。服薬自体が手間になってしまうと、服薬を患者さんの判断で自己中断したり、服薬の遵守ができなくなってしまうリスクがあります。

当然、薬の種類が増えると薬代も多くかかってくるので、経済的にも負担を増やしてしまいかねません。

負担が増えたら、薬の中断により症状が再発する可能性が高まります。それは患者さんの不利益につながりますし、なんとしても避けたいのです。

副作用のリスク、管理が大変になる

おくすりは基本的に、薬でもあり、毒でもあります。

どんな素晴らしいお薬でも、適量を超えてしまえば、効果より副作用の方が上回ってしまい、有害な結果につながる危険性があります。

お薬をたくさん処方することで、当然こうしたリスクは上がってきます。

たくさん薬を飲んでいると、もし何か有害なことが起こった場合にも、それがどの薬のせいなのか分かりづらくなります。

なので、出すおくすりはシンプルに越したことはありません。

処方にも手間がかかる

これは医師の観点とは異なりますが、薬局で働く薬剤師さんにとっても多剤処方はあまり良いとは言えません。

多剤処方であれば、当然薬剤師さんの調剤にも手間や時間がかかります。そうすると、薬局にとってコストパフォーマンスは悪くなってしまいます。

また、患者さんが薬局で薬をもらう待ち時間も長くかかることになりかねません。

薬をたくさん出しても儲からない?

基本的に、「たくさん薬を出せば儲かるのか」と言われると、それは事実ではありません。

保険診療における治療や薬の処方には、自己負担分を除いて保険料が当てられています。高齢化が進み、医療費が増大する中で、国の負担はどんどん増大しています。

そんな中で、精神科の薬の多剤処方には「診療報酬改定」(国が、医療行為に対して取り決めている支払い報酬)が行われ、定められた数を超える多剤処方の場合には「診療報酬を減らす」というルールを設けました。(特定の条件を満たした専門医を除く)

つまり、たくさん薬を出すと、儲かるどころか、儲けが減ってしまう可能性もあるのです。

薬は一生飲まされる?

これに関しては、私が診療をしていても多くの患者さんから質問をされることです。

精神科のお薬を飲み始めるとき、「一体いつまで飲み続けるのか」と心配になる方は多くおられます。

これに関しては、一言で表すことが難しいのですが、「(現時点では)飲み続けた方が望ましい」と思われる場合もあれば、「ある程度症状が安定すれば、止めることも可能」という場合もあります

例えばうつ病などの場合は、症状が改善しても抗うつ薬の治療をすぐにやめてしまうと、うつ病が再燃するリスクが高くなってしまいます。

そのため、症状が寛解(症状が一旦消失した状態)しても、一定の期間は飲み続けることが望ましいと言われています。

統合失調症の場合も、服薬の中断が再燃につながることが多くあり、服薬を継続することが重要になってきます。

ただ、処方する側の医師としても、可能ならば「通院や服薬が不要になれば良いな」と考えています。通院や服薬が、社会生活の妨げになってしまう可能性があるからです。

ですので、再発予防のためやめられない場合はやむを得ませんが、「服薬を止めることが可能」と判断した場合には、処方をやめたり、最小限の量に減薬していくことも多いです。

多剤処方はなぜ生まれる?

それでも、事実として、精神科領域では「多剤大量処方」といった「薬漬け」に近い状態がまかり通っていることもあります。

これには、いくつかの理由があると考えています。

医師が多剤処方をする理由

患者さんの症状を解決するため

外来で診療をしていると、患者さんの調子が崩れたりして、「何とかして欲しい」と頼まれることがあります。

そうなると、症状を見ながら新しいお薬を追加したりすることがあります。

患者さんの状態が不安定であることは、当然、診療する医師にとってもストレスになります。

何か起こった問題に対して、「薬を追加する」というのは、比較的簡単にできるため、ついつい処方が増えてしまいがちです。

そこで、どんどんくすりの足し算が行われて多剤処方が完成してしまいます。

減らすのには勇気がいる

薬を足していくことは比較的簡単ですが、「やめる」というのは難しいことがあります。

精神科の薬の中には依存性があったり、急に減らすと離脱症状といって症状が悪くなったりするものもあり、減量には慎重さを要することがあります。

患者さんの調子が悪い時、もしくは安定しているときに、「薬を引いてみる」というのは、結構勇気がいることなのです。

その結果、何か起こるたびにモリモリ薬が足されていき、引き算はされることはなく、ついには「薬漬け状態」となってしまうことも少なくないのです。

患者さんが薬に依存・乱用してしまう

また、多剤処方の原因の中では、患者さんが自ら薬の処方を希望して、自ら「薬漬け」状態に陥ってしまうこともあります。

精神科の薬には、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬など、長期間の使用で依存性が生じる薬もあります。

医師が処方を避けたいと思っていても、患者さんが服薬に依存してしまい、執拗に医師に処方を求めたり、ドクターショッピングをして薬を捜し集めたりと、不適切な服薬状況に陥ってしまうこともあります。

医師としては、こうした状況を避けるために、依存や乱用を疑う場合には処方を避けるようにしていますが、それが原因でトラブルになることもあり、なかなか難しい問題です。

負の遺産としての多剤処方

また、精神科の薬や治療は日々進歩しており、次々に効果や安全性に優れたおくすりが登場していますが、つまり発展の途上であると言えます。

過去には、多くの薬をたくさん処方することで、症状をコントロールせざるを得ない状態もあり、多剤処方がまかり通っていた時代もありました。

現在でこそ多剤大量処方の有害性が認識され、診療報酬的にも制限がかかる方向となっていますが、そうした処方傾向は一朝一夕には改善しないので、ある意味「過去の遺産」として存在している面もあります。

「薬漬け」を避けるために

日本の精神科の医療には、まだまだ解決しなくてはいけない問題は多いです。多剤処方もその一つでしょう。

ただ、偏ったモノの見方で、必要以上に薬漬けの恐怖を煽るのは、正しい医療を提供する上でも良くありません。

さて、薬漬けを防ぐためには、患者さんとしてはどうしたら良いのでしょうか。

当たり前かもしれませんが、大切なことは、信頼できる医師を見つけて、しっかりと治療関係を築くことだと言えます。

処方は可能な限りシンプルで最低限にすることが望ましいですが、中には併用することでメリットを得られる薬もあり、併用療法は必ずしも悪いとは言えません。

信頼できる治療者と、服薬に関する不安や自身の症状を相談しながら、納得のいく治療を進めていくことが大切です。

もちろん私も診療をしていると、ギョッとするような多剤大量処方・薬漬け状態の処方を目にすることもあります。しかし、すべての医師がそうではありません。

多くの医師が、患者さんの症状の改善や負担の軽減を意識して、本当に必要な処方を行うように努力しており、時代もその流れに向かっています。

適切な薬剤療法を行い、患者さんの人生が好転する瞬間に遭遇するのは、医師にとってこの上ない喜びです。

心の悩みを抱える患者さんが、より良い治療に巡り会えることを願っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

大学病院勤務の20代精神科医。市中病院で初期研修後、大学にて精神科後期研修3年目。ブログ運営が趣味(3サイト運営中)勉強を兼ねて、精神科の知識やネタについてアウトプットしていきます。

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